全国通訳案内士の資格を取れば、本当に仕事は来るのか──これは、受験を考える多くの人が抱く疑問です。資格試験の難易度は高く、合格後の姿が見えにくいのも事実です。私自身、添乗と通訳案内の現場を両方経験する中で、理想と現実の差を感じてきました。仕事はどうやって見つかるのか、安定して続けられるのか。現役時代、ガイドしたツーリストから最高評価を頂戴し続けた全国通訳案内士・新津正人が、現場目線で率直に書いてみたいと思います。
※本記事は、著者が執筆した電子書籍をもとに、加筆・再構成したものです。
※This article is adapted from my Kindle eBook by the author.
【contents】
1. 全国通訳案内士とは何をするのか
全国通訳案内士。これは普通の人には耳慣れない言葉だと思われる。しかし、その歴史は古く1949年に制定されたもので、観光庁長官が実施する国家試験「全国通訳案内士試験」に合格して、在住する都道府県に登録した者をいう。
英語をはじめ仏、独、西、中、伊、露、韓、ポルトガル、タイ語がある。現在、登録者は約2万人いるそうだ。しかし、私の推定では実働者は3割いるだろうか、というところ。理由はおいおい語ろう。
この試験の受験科目は、英語(あるいは、前記の他の言葉)、日本歴史、日本地理、そして一般常識の4科目で年に1回行われる。
私はこの試験の5回目に、つまり4浪して、2017年にやっと合格した。たぶん、その年の合格最年長者から2、3番目には入っているだろうと思われる。つまりその年、私は72歳だったのだ。
面接は、絶対に通る自信があった。私の場合、基本的にキャラも良いし(自分でいうかね)、実際のところ、インバウンド添乗で外国人観光客からの旅行後のアンケート評価もずっと最高点だったからだ。
面接は、広い部屋に外国人ひとり、日本人のきれいな女性ひとりが待っていた。試験問題は2種類。ひとつはB6サイズの白紙3枚にひとつずつのテーマが書いてあり、その中から自分が英語で最も上手に説明できるものを、その場でひとつ選択する。
それについて1分だか3分考える時間が与えられる。そしてプレゼンテーション。プレゼンテーションの後、その内容についての質疑応答。
もう1問は、口頭で質問を英語で投げかけられて、そこからの質疑応答であった。
面接は快調に進んだが、ひとつ、私の知らないことを答えなければならない場面に出くわした。
試験中にこんなことになれば誰でも狼狽するものである。しかし、知らないものは知らないし、知ったかぶって話を作っても墓穴を掘るばかりである。
「あ、それはいま分かりませんので、調べて後刻、ご案内いたします」
と、いつもの添乗中の応酬話法がすらっと出た。試験中の質問の回答を、後刻というのだから、おそらく面接試験後となる。二人の面接官は、始めキョトンとしたが、やがで苦笑から本笑いになり、場は一気に緩んだ。
私が面接官なら、この者、即刻採用である。行き詰って寡黙になって、場が止まってしまった訳ではないし、嘘を捏ね上げるわけでもない。ユーモアともとれるひと言で難局を乗り越えたのだ。
旅行の運営には、このような機敏な対応というか場繋ぎが要所要所で必要だ。添乗員やガイドが目前の難問に動揺してシドロモドロ状態では、旅行者が添乗員やガイド、あるいは旅の今後の進行に不安を抱いてしまう。旅行中の飲食時やバスの中で、笑いが出れば旅行者の気持ちも緩んで和めるし、全員の融和も図れる。このような機知のセンスは、添乗員やガイドの必須要件といってもいい。知性・教養はもちろん大事だが、それよりも優先順位は高いと、私は思っている。
このようにして私は晴れて全国通訳案内士の資格を取得することができた。
2. 全国通訳案内士、仕事は順調に来るのか
さて、このようにして難関の国家試験をクリアし、合格証書をいただき、在住都道府県に出向いて登録が済んだ。そうしたら仕事は順調に来るのか? 仕事が順調に来る?、それはどういうことか。
結論的には、全国通訳案内士の資格を取得しても、座していたのでは仕事は向こうからは来ない。これは添乗員より断然厳しい。
添乗員の場合は、 仕事は、所属事務所の営業担当が旅行代理店からとってくる。それを事務所内の登録添乗員に割り当てるのである。したがって、添乗員は、自ら仕事を探す必要はまったくなく、座していれば、仕事は向こうから順調に来る、のである。
全国通訳案内士の場合、基本的にどこの事務所にも属さない。一匹オオカミのフリーランスである。私が全国通訳案内士資格がなく、単なる海外旅行の添乗員だったころ、私の所属する添乗員派遣事務所では、添乗員同士がLINEで繋がっていて、海外添乗中の添乗員が、どこそこの空港の免税手続きはどうするんだったっけ、とか、ミラノ周辺の気の利いたレストラン知らない、とかのSОSを全員に流せば、海外添乗中、あるいは国内待機中の何人かがすぐに対応できる相互補助のシステムが完備していた。
しかし、全国通訳案内士の場合は、そういうシステムもできていない。ましてや仕事は自分で探さなければならない。これを、資格取得後に初めて知った人たちは、きゃぁ、きゃぁ言って困り果てる。それで、資格はせっかく取得したのに仕事が「自動的に」「来ない」ので、この仕事をあきらめることになる。私は、資格取得者の半分以上がそういう状態に陥っていると見ている。
3. 全国通訳案内士、仕事の探し方
全国通訳案内士が仕事を探すには、
- しかるべき旅行代理店へ自分を売り込む。
- しかるべき全国通訳案内士協会のようなところへ年会費を払って加盟し、そこが流してくれる仕事を確保する(競争率が高い、先着順何名まで交渉権ありとか)。
- 自分で求職のウェブサイトを作って外国向けに発信する。
- 日本への旅行希望者と全国通訳案内士を結びつけるウェブサイト(仮にマッチング・サイトと呼ぶ)に参加する。
等々、いくつかある。しかし、基本は積極的、自主的な姿勢と、やはりこの節、インターネット関係の検索能力やホームページ制作能力、英語での発信能力が必要であろう。
私の場合、上記④が求職の中心である。そのマッチング・サイトには、参加している全国通訳案内士のページがあり、以下の内容が公開されており、海外在住の訪日希望の外国人がそれを見て、好みの?全国通訳案内士へメールを入れてくる。
【全国通訳案内士の個人ページ内容】内容はすべて英語です。
- 自己紹介の動画
- 自己紹介文
- ガイドした観光客の私への評価点および評価文
- 料金表
- 稼働可能曜日および時間
- ガイド可能都道府県
- ブログ
私は、留学の経験も海外駐在の経験もなく、英会話には自信はないが、ビデオ・メッセージを見てとのことでガイドを希望してくる見込み客は多い。

この動画を見て、ガイドを依頼してくる観光客は多い。名前を憶えてもらえるように、名前入りのうちわも作った。
【入金】
旅行代金の入金は、ガイド終了後、観光客がウェブサイト運営会社へ支払う。その後、同社からガイドへ支払われる。観光希望者とガイドは、運営会社のサイトでのみ交信でき、個人のメアドなどの交換はできないし、名前もファースト・ネームだけの使用となるルールとなっている。
4. 全国通訳案内士の資格があっても、旅行は回せない
全国通訳案内士のもうひとつの問題点は、仮に仕事が来ても、資格を取っただけでは旅行を運営することは、まず、できないということだ。
全国通訳案内士の実地研修に参加してみると、仕事の7、8割は添乗業務なのだ。レストランやホテルでの人員数や時刻の確認、走行中のバスの中からの電話確認、変更、その他、雑務の数々は全部、全国通訳案内士がすることになるのだ。そんなことは全国通訳案内士の受験科目の勉強参考書にも出ていない。資格取得後の実地バス研修で初めていわれるので、みんな、びっくりしてしまうのだ。
5. 添乗員の資格も必要
結局、添乗員の資格を取る必要に迫られ、その機関へ走る。そのための資金と時間がさらに必要になる。
さて、あくせくして添乗員の資格も取った。そうしたら旅行をうまく回せるか。否、である。添乗の実務がないのにどうやってうまく回せるのだろう。最初は、悪戦苦闘しながら、数回の実務をひとりでこなし、自信を強くしていくしかないのだ。嗚呼、全国通訳案内士の道遠し、である。
その点、私は海外添乗もし、インバウンド添乗もしてきていた。とくにインバウンド添乗では、お客さまは外国人だし、それを数多くこなしてきた。期間も1週間もの、2週間もの、そして3週間ものもあったが3週間の添乗経験が最も多かった。いろいろなトラブルに遭遇もし、解決してきた。これが良い経験となっている。
6. プライベート・ツアーに特化
私はいきなり全国通訳案内士になったのではなく、日本人向け海外旅行の添乗員、訪日外国人観光客(インバウンド)のグループ・ツアーを経験の後、全国通訳案内士となった。
現在は、グループ・ツアーは1家族や2家族(フィリピン人が多い)と多くても10人くらいまでとし、基本的には富裕層の夫婦や家族(3~4人)のプライベート・ツアーに特化している。主に欧米人となる。この場合、交通手段はハイヤーなどの貸し切り使用となる。車種的にはトヨタのアルファードかベルファイア、日産のエルグランドになる。
貸し切り車の予約は、私が関与しているマッチング・サイトでは、観光客が海外から日本のクルマ会社へ直接、予約することになっている。英語対応になっている。全国通訳案内士は旅行代理店ではないので、こうした予約はできない。
こうしたプライベート・ツアーでは、説明的なことはクルマの中で十分できるし、観光ポイントに関連する小話や日本の風俗・習慣なども紹介できるので便利である。
7. まとめ
晴れて全国通訳案内士の資格が取れても、あすから仕事ができるわけではない。
- まず仕事を探さなければならない。
- 仕事が来ても、全国通訳案内士の勉強や実習で経験したことだけでは、仕事は回せない。添乗員の実務を知る必要がある。
- また、英会話が得意でも、客の満足感を満たすことはできない。英会話能力とガイド能力は別能力なのだ。
こうしたことを地道にクリアしながら、全国通訳案内士の仕事を身に着けていくことになる。
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※本記事は、著者が執筆した電子書籍『添乗員はつらいよ』【写真】を加筆・再構成したものです。
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