「外国人は寿司が大好き」──日本では、半ば常識のように語られています。しかし現場で多くの外国人観光客と接していると、この言葉にはかなりの誤解が含まれていると感じます。確かに寿司は有名ですが、必ずしもどの観光客もが喜ぶ料理ではありません。では、なぜ私たちはそう思い込んでしまうのか。添乗中に見えてきた、寿司をめぐる意外な現実を整理してみたいと思います。
※本記事は、著者が執筆した電子書籍をもとに、加筆・再構成したものです。
※This article is adapted from my Kindle eBook by the author.
【contents】
1. 初めての回転寿司体験
私がよく添乗した訪日観光客向けのサクラ・ツアー(仮称)は、おおよそ次のようになる。
期間は3週間。福岡、広島、倉敷、大阪、松本、長野、そして東京の7つの都市に宿泊する。広島からは、厳島神社への日帰り、倉敷からは瀬戸内海の直島(なおしま)への日帰り、また、倉敷から大阪へ行く途中、姫路城観光、大阪からは京都、奈良への日帰り、松本からは上高地への日帰りなどをする。
それぞれの都市に3泊するが、長野は善光寺の宿坊に1泊だけする。
広島から倉敷への移動は、JR山陽本線の各駅停車を使う。広島と倉敷間は30駅。途中、ほぼ中ほどの播州赤穂駅か糸崎駅で乗り換えるが、約2時間半の行程となる。
サクラ・ツアーでの、倉敷での観光ポイントは、まず第一は倉敷川を中心とした歴史美観地区である。二つ目は、JR総社駅からほぼ東へ田んぼの中や農村地帯を吉備一宮駅まで走る、吉備路サイクリング。約15キロである。
そして、三つめは直島(なおしま)観光である。瀬戸内海に浮かぶ香川県の直島へは、倉敷から岡山、茶屋町とJRを乗り継いで、宇野駅まで行く。そこからフェリーで直島の宮浦港へと行く。
倉敷での私の腕の見せ所は、観光客に寿司を初めて食べさせるときだ。日本に初めて来る彼らは、和食の代表格ともいえる寿司を、日本ではまだ一度も食べていない。オランダで食べたことがある人はかなりいる。しかし、目の前で日本の寿司職人が握った寿司を食べた人は、ひとりもいない。

倉敷・回転寿司「寿司丸」。筆者の案内客。
ここへ来るまでの福岡、広島にもすし屋があるが、私の目に適う寿司屋は見つかっていない。
倉敷で私が彼らを連れていくのは、駅の山側にある複合商業施設の地下にある回転寿司店だ。厨房部分を入れると50~60坪はあるだろうか。客席も50席は下るまい。
店長も従業員も皆さん明るくて対応がいい。寿司好きの私がみても、ネタは地元の魚も入れて豊富で美味い。
早めに人数を知らせておけば、まとまった席はいつでも確保してくれる。東京では、地代が高いので、こんなに大きな回転寿司店を私は知らない。
目の前のタブレットで、写真を見ながら、価格を確認してお客さま自身で発注できるので、私の手がかからなくていい。注文した皿は、新幹線デザインの器にのって、ベルトでピヤァーッとくるので、オランダ人は子供のように大騒ぎして楽しむ。もちろん、動画撮影のカメラでごった返す。
何回も経験して見ているが、彼らが好きなのは、生サーモンにスライス・オニオンをのせ、それにマヨネーズをかけたものだ【写真】。

外国人観光客が好むサーモン+タマネギ+マヨネーズ。
ここで、私は清酒をいつも勧める。寿司には清酒がいちばん合うのだ。男女とも頬を染めて話したり、食べたり、写真を撮ったりと忙しい。
しかし、オランダ人を含む欧米人が、寿司が好きかというと、私にはそうは思えない。寿司が日本の代表的な食品であること、油も砂糖も使わず健康に良いこと、ダイエットにいいこと、世界的にみて長寿国の日本人がよく食べるらしいので、自分も「本場」の寿司を食体験したいこと、盛り付けなどの見栄えがいいこと等々で、”一度は食べてみよう”というくらいの気持ちだろう。
2. 外国人、本当は寿司は好きではない?
もともと彼ら外国人には、生ものを食する習慣がほとんどない。生の食材を「料理」して食べるのが、文明国の人種がすることで、生ものを喰うなんて「野蛮」だ、というような考えがうかがえる。
むかし、広告やマーケティングの仕事をしていたころ、ローザンヌに10日ほど、海外支社の外国人15人くらいが参加するセミナーがあり、それに参加したことがある。ランチ時に街中の小洒落たフランス・レストランに行った時のことだ。
私は生牛肉のタルタル・ステーキを頼んだ【写真】。見かけは、焼く前の餃子の詰め肉のような感じだ。厚さ約10ミリ、直径15~16センチ位の、ま、生肉だ。これに、塩、コショウで、自分でさらに味を追加し、マヨネーズと鶏卵のタルタル・ソースで食べる。れっきとしたフランス料理だ。

ローザンヌで食したタルタル・ステーキによく似た写真。
これを見た同じテーブルの連中が、そんなものを喰うのか?とのぞき込む。いいから、ひとさじ食べてみな、と勧める。何人かが恐る恐るフォークでその肉をひっかけて口に運ぶ。
私 「美味いだろ?」
A君「・・・・」
B子「・・・・」
ってな、感じだった。
要するに、欧米人は生ものをあまり口にしない。食中毒を、大いに気にしている。
またある時のこと。観光ツアーのオランダ人グループと居酒屋で鳥刺し(鶏肉の刺身)を食べることになった。ひとりが、そんなものを喰うのか、とパニクッた。写メを撮り、自国のシェフである兄貴にそれを送った。兄貴からは、
「そんなものは絶対に喰うんじゃない!」
との、きついアドバイスがあった(笑)。
考えてみれば、日本のコールド・チェーンは世界の中でダントツに優れている。鶏や豚の飼育現場、処理現場、ロジ現場、販売現場、みんな徹底的に衛生管理がなされている。テレビ番組でも、かの国の食品専門家が日本のこのような現場を視察して、その徹底ぶりに目をシロクロさせるのを読者も見たことがあるだろう。
ま、話は飛んだが、外国人は寿司を好きではないといっていいだろう。しかし、中には寿司が好きなお客さまもいる。トビアス君という青年は、日本に来て寿司にはまった。とくに回転寿司店はお気に入りで、東京滞在中は4回も行ったと楽し気に話してくれた。
3. 日本人は毎日寿司を食べるのか?
観光客によく聞かれるのは、
「日本人は毎日、寿司や刺身、すき焼き、天ぷら、そしてラーメンを食べているのか?」
ということだ。
ま、ラーメンは、好きな日本人は週に何回かは食べるだろう。しかし、寿司やすき焼き、天ぷらなどはそうそう頻繁には食べない、ということを説明する。
すると、「それでは毎日何を食べているのか?」という質問が返ってくる。そこで私は日本人の日常の朝夕の食事を説明する。西欧人と同じに、肉や魚、野菜を毎日、日本流に調理して食べている、と説明する。
すると、「日本料理には出汁(だし)が使われているんですよね」などと突っ込んでくる客もいて、それはそれで話が進んで面白い。
私はこのような時のために、会社員などが昼食用に日常的に食べる庶民的な料理を説明した、
『Japan’s Top 22 Casual Foods and Dishes』
という電子書籍をAmazon.com から発売している。

『日本の庶民的料理22』筆者著電子書籍。
Amazon.com から好評発売中。
Amazon.com の書籍通販ページで「Masato Niitsu」【検索】で、他の英文の日本ガイドブックも確認できます。
4. まとめ
外国人観光客が寿司を食いたいの、すき焼きを食いたいの、というのは、彼らがそれらを好きだからではなく、ガイドブックやインターネットに、「お勧め料理」として紹介されているからだろう。
私の経験からすると、寿司、刺身、すき焼き、ラーメン、お好み焼き、天ぷらなどの内、寿司や刺身などの生モノ以外は「もう一度食べてみたい」という反応だ。寿司や刺身には、明確な調理味がないので、初めて食べる人にはゴムみたいなものだそうだ。生モノが身体に合う人や、醤油が好きな人(けっこういる)は、寿司や刺身をもう一度食べたいと言ってくる。
また、生モノを自国で食べる習慣がほとんどないので、衛生面での心配が大きいようだ。私は、日本では食品衛生は世界一厳しいので、皿に盛られてきたものは何でも食べられる、と説明しているが、なかなか得心しがたいようだ。
5. Amazon.com 書籍通販で好評発売中(電子書籍&紙書籍)

※本記事は、著者が執筆した電子書籍『添乗員はつらいよ』【写真】を加筆・再構成したものです。
実際のツアー現場で起きた出来事や、その後の展開については、電子書籍でより詳しく紹介しています。

