特別ルポ『添乗員はつらいよ』⑦ 旅先で始まる国際交流「エキサイティング!」と感動する日本人との接触

特別ルポ添乗員はつらいよ 通訳案内士/添乗員

 観光名所よりも、外国人観光客の心に強く残る場面があります。それは、電車内や街中といった、ごく日常的な空間での出来事です。席を譲る、声をかける、身振り手振りで助ける──日本人にとっては無意識の行動でも、彼らには強い印象を与えます。添乗員として何度も目にしてきた、電車内や街で始まる小さな国際交流。その意味を、少し立ち止まって考えてみます。

※本記事は、著者が執筆した電子書籍をもとに、加筆・再構成したものです。
※This article is adapted from my Kindle eBook by the author.

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1. 善光寺でお神輿担ぎ

 私は来日外国人観光客には、できるだけ日本の人との話を楽しんで欲しいと心がけている。

 いつだったか、善光寺に滞在することになったその時期が、同地の夏祭りにあたった。神輿が大人用と子供用が繰り出したり、山車が出たりと大賑わいであった。いろいろな露天商や、ボランティア団体のテント出店など、観光要素が多く、添乗員としてはひと安心である。

 例によって私は、目印の旗などをもって一行をゾロゾロと引き連れない。全員集合の時点で、観光ポイントを地図とともに説明し、後は街に放つ。彼らもその方を好む。要領のいいツーリストは、添乗員に付いて回るのが、ポイントを外さず要領よく回れる、と私についてくる。

 もう少しで身長2メートルにはなろうというアンドリューは、私と一緒に散策していた。折よく大人の神輿が通りかかった。神輿とともに練り歩いていた町内会の役員とも思われる男性が、お神酒に顔を赤くしながら、アンドリューに一緒に担げと誘う。

 どう見たって、彼が担ぐとなると他の連中は万歳状態で神輿を運ばなければならない。アンドリューもそれがわかるので固辞したが、その役員も他の担ぎ手も彼を誘う。仕方なく彼は、誘われて最前部に肩を入れるのだが、どうやっても中腰でないとみんなと調和がとれない。

神輿担ぎを楽しむアンドリュー。

「ワッショイ、ワッショイ」
と、アンドリューは顔を真っ赤にしてみんなと一緒に掛け声は出すものの、中腰は辛い。
10メートルも行かぬうちに抜けざるを得なくなった。みんなも承知して、神輿を置き、大きな拍手をしてくれた。

「さあ、飲みな」
と、コップで冷酒を渡され、彼はそれを一気に飲み干した。
「オー!」
という感嘆の声とともに、みんなが再び大きな拍手をしてくれた。

 そこでガヤガヤと英語と日本語の飛び交う話をしていると、そこへアノックという20歳くらいの女性が息弾ませて寄ってきた。
「ねぇ、ねぇ、マサート、私、あそこでお神輿担いできたのよ。だって、みんなが担げ、担げっていうんだもん。わたし、興奮しちゃったわよ」
 アノックは、小鼻に汗をかき、額の汗に髪を貼り付け、可愛げに報告に来たのだ。
「写真は撮ったの?」
「ええ、日本人の女の子が私のスマホで撮ってくれたわ。この写真は、スマホより大事よ!」
 アンドリューもアノックも大いに興奮し、彼らのメモリーの中に楽しい一ページを飾ることができた。

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2. 電車内や駅ホームでの交流

 これは一番多いケース。電車では日本人から話しかけてくれることが多い。大阪の地下鉄御堂筋線で、中年女性が私に話しかけてきて、お国は?と聞くので、オランダと答えると彼女は旦那の関係でオランダに駐在していたことがあったそうだ。話を旅行者につないであげた。彼女は多少の英会話ができ、旅行者とつかの間の会話を楽しんだ。

 近鉄奈良線で奈良観光から京都へ向かうとき。大和西大寺駅のホームで電車を待っていた。5、6人の女子高生グループがいた。私ども一行に興味深そうにチラチラと視線を送ってくるので、若い女性旅行者二人を彼女らのところへ連れて行って、英語の勉強になるから、英語で話したら?と水を向けた。

近鉄奈良線大和西大寺駅ホームで地元の女子高生と仲良しに。

 今の女子高生は、私らの世代のように恥じらいが強くない。すぐ話し始めて、
「わあ、通じた、通じた!」
とかいってキャアキャアいって喜ぶ。無邪気そのもの。こんなことで英語の勉強が好きになってくれればいい。

 何を話していたか、もはや記憶にはないが、いろいろなことを身振り、手ぶりで楽しそうに話していた。最後にお互いのスマホで記念の集団写真、Vサインで。

 これまでに流暢な英語を話す日本人はひとりもいなかったが、ツーリストは聞き返したり、言い返したりしながらも、何とか理解できた。外国へ旅をして、現地の人たちと飾らない会話ができることは楽しいことである。彼らも日本人と話ができたことを嬉しかったであろう。

3. 山陽本線の電車内にて

 山陽本線の各駅停車で、岡山から姫路に向かう時の話。二十代のエリンの隣に幼子(おさなご)を抱えた、これも20代と思われる日本人のママが乗り合わせた。エリンは興味ありげで幼子をあやすように顔や唇を動かしてサインを送っている。そのうちに、ママと目が会った。エリンが、
「いくつなの?」
と聞いた。突然のことで、しかも英語で話しかけられママは一瞬たじろいだ。
「オランダから来たんですよ」
私は助け舟を出した。
エリンがもう一度ゆっくりと、
「ハウ・オールド・イズ・ユア・ベイビー?」
と聞いた。ママはわかって、
「ワン、ワン」
と指を立てた。
「ボーイ、オァ、グール?」
これはすぐにわかって、
「ガール、ガール」
といって照れくさそうに笑った。エリンも微笑み返した。あの赤ちゃん、今頃はもう、伝い歩きくらいはできるようになっただろう。

電車の中で日本の若い母親と話をするエリン。たぶん二人の年齢は近い。

4. ワタシ、ニホンゴハナシマース

 こんな具合に、日本人はだいたいの人が、外国人がゆっくりと話すと意味は分かる。問題は続けた会話ができないことだ。中学・高校と6年間も英語を勉強しても、英会話ができない。私もそうだった。まさに世界の七不思議のひとつといえる。そして日本人の英語を話す人の率は、わずかに3%とも5%でしかないともいわれている。確たる数字はどこにもない。

 外国人は面白い。
「ワタシ、ニホンゴ、ハナース」
と日本語でいうから、
「あ、そう。何がはなせるの」(英語)
「オハヨ、ゴザイマス、アリガト、イチ、ニ、サン」
「それから・・・」(英語)
「・・・・・・」
こんな具合でも、
「私は、日本語を話せます」
と言えちゃうところがスゴイ!

 日本人の場合は、英会話が苦手な人は、外国人に対して、
「私は、日本語を話せません」(英語)
と、きれいな発音でいうものだから、外国人は目をシロクロさせてしまう。

5. 日本人少女と英語で交流

 長野県は篠ノ井線。『姥捨て伝説』の伝わる姥捨駅は、標高551メートル。同駅の無人ホームから見下ろす善光寺平は、根室本線の狩勝峠(現在はルート変更により廃止)、肥薩線の矢岳駅とともに日本三大車窓のひとつと数えられているそうだ。

 同駅では、時間調整のためか多少時間があり、雄大な善光寺平をたっぷり堪能できる。電車が同駅を出てすぐに、私の近くに小学生ほどの少女と座っていた中年の女性が、私に話しかけてきた。
「皆さん、どちらからですか?」
「オランダからです」
「あら、奇遇だわ、この子、孫なんですけどアムステルダムにいたんですよ。英語話せます」

アムステルダムに住んでいた女の子。

 目鼻立ちのすっきりした聡明そうな子だった。私は、一行にそのことを伝えた。さっそく、若いシャンタルが話しかけた。それからは、その子はグループの人気者で、次から次へと声がかかり、長野駅まで退屈せずに過ごせた。その子は横浜に住んでいるのだが、夏休みでおばあちゃんのところへ遊びに来ていたのだった。
 大きくなったらどのような仕事につくのかなぁ。

6. 大学の学食での国際交流

 ツーリストを京都に案内する時は、大阪でのホテル滞在が多い。京都は西の嵐山を最初に行き、そこから東へ竜安寺、金閣寺、そして二条城のように巡る。このツアーは貸し切りバスで観光するのではなくて、基本的にすべて一般のJR、私鉄、それに公共バスなどを使う。京都市内では、一日乗車券を使う。

 石庭で有名な竜安寺の近くに衣笠山(標高201メートル)があり、そのちょうど南側には立命館大学がある。衣笠山やきぬかけの路は、第59代宇多天皇が、真夏に雪景色が見たいと衣笠山に白絹をかけた故事から、そう呼ばれている。

 ここの学生食堂は毎回使わせていただいている。民間企業へ委託して運営されているようだ。したがって、部外者の利用禁止ということもない。毎回、正門の守衛所に軽く挨拶をしてから構内の食堂へと進む。構内には二つの学生食堂がある。朝、ホテルを出る前にランチは大学の学食ですよ、と案内してある。皆さん、日本の学生と話ができると楽しみにしている。

 食堂の雰囲気は、ほかの学食や社員食堂と似たり寄ったりだ。

 列を作ってトレーをとり、主食類は丼物とか魚肉のフライ系、カレー系、そして麺類系を係員に頼む。ご飯とみそ汁もある。写真が貼ってあるので言葉はいらない。望むらくは、メニューに番号をつけておいて欲しい。これは、日本中のレストランにお願いしたい。

 副食系やデザート系は、自分で陳列してあるガラス扉の冷蔵庫から好きなものを取れる。後はレジに並んで支払う。福岡から京都までは、すでに1週間以上経過しているので、支払いで後続者に迷惑が及ぶようなことはないが、万が一に備えて他の学生さんに迷惑が掛かるといけないので、私はレジの近くに待機している。

 席は、なるべくツーリスト同士が固まらないようにして、学生の間へ割り込むように案内する。ツーリストがあちこちに分散して席がとれたら、私は、そのグループを1組ずつ回り、
「オランダの旅行者です。どうぞ遠慮なく話してください。自分の英会話力を試すチャンスですよ」
と、学生に勧める。すると、
「ええー」
とか、
「まじっすか」
とか、いろいろな反応が出てくるが、
「旅行者も皆さんと話したがっています」
などと言って火をつけて回る。これで、会話しなかった組は今までに一組もない。
 余計なお節介と言われれば、それまでだが、こうしたお節介がお客さまの旅行メモリーにひと味追加されるのだ。

 これは、学生さんにも好評なのだが、旅行者にも大変喜んでもらっている。学生さんと年齢の近い旅行者もいるし、大学の教員だという人もいた。学部はどこだとか、将来はどういう職業に就きたいのか、とか、オランダのことを知っているのかなど、学生さんがカタコト英語でも話はどこまでも続き、次へ行くために話を中断させるのもひと苦労だ。
 こんなことをしているから、自分の食事の手配ができていない。あわてて自分の分をかき集めるように急いで支度し、どこかの組の近くに席を取って食べる。

 一時間ほどで食事が終え、食堂のある地下から地上の、芝生にベンチのある休憩場所へ出る。
「マサート、実にエキサイティングなランチだった。素晴らしいアレンジだ。学生諸君と興味ある話ができた」
と、現役の大学教授。え?大学教授? そう、こんなことがない限り、私は彼らの職業を知ることはできないのだ。

「マサート、とても楽しかったわ。私、先月、大学を卒業したばかりだったし」
と、ホイットニー・ヒューストンのような容貌の23歳のスハヤ、女性。

 毎回、ここでランチするが、ツーリストからはいつも感激の言葉を聞き、嬉しく思っている。

 観光旅行というと名所旧跡や美観地域、世界遺産などを見て回るだけになってしまいがちだ。このように現地の人(日本人)との、生の会話を楽しむことで、旅は二重も三重も印象深いものにしてあげられる。

 日本人の海外旅行では、日本人の大部分が英語を話せないので、このようなことができないのは残念だ。

7.まとめ

観光旅行は、景色や食事、温泉だけが楽しみではない。外国人観光客の観光先での楽しみは、現地の日本人とおしゃべりをすることや、その土地の催事に招かれることだ。そんなことは、旅行代理店が作った日程表には入っていない。

ガイドや添乗員が、その場その場で気を利かせて、そのような場を作り出すことが肝要なのだ。英語が達者だけのガイドや添乗員には、そういうことができない。

私は英会話は、全国通訳案内士の資格を持っているとはいえ、そんなに得意ではない。しかし、ツアー客が何を欲しているのかを察する感性は、他の同業者とは違うと思う。「顧客の満足度」とは、マーケティングでよく言われることだが、観光業でも極めて重要なことだと思う。

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※本記事は、著者が執筆した電子書籍『添乗員はつらいよ』【写真】を加筆・再構成したものです。
実際のツアー現場で起きた出来事や、その後の展開については、電子書籍でより詳しく紹介しています。

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