訪日外国人にとって、日本での「最初の夕食」は、その旅全体の印象を左右します。寿司か、天ぷらか、それともラーメンか──。良かれと思って選んだ店が、必ずしも喜ばれるとは限りません。実際の添乗現場では、失敗と試行錯誤の積み重ねでした。外国人観光客は、日本料理の何に期待し、何に戸惑うのか。ツアー添乗で得た結論を、具体例を交えてご紹介します。
※本記事は、著者が執筆した電子書籍をもとに、加筆・再構成したものです。
※This article is adapted from my Kindle eBook by the author.
【contents】
1. 3週間7都市訪問のサクラ・ツアー
私がよく添乗した訪日観光客向けのサクラ・ツアー(仮称)は、おおよそ次のようになる。
期間は3週間。福岡、広島、倉敷、大阪、松本、長野、そして東京の7つの都市に宿泊する。広島からは、厳島神社への日帰り、倉敷からは瀬戸内海の直島(なおしま)への日帰り、また、倉敷から大阪へ行く途中、姫路城観光、大阪からは京都、奈良への日帰り、松本からは上高地への日帰りなどをする。
それぞれの都市に3泊するが、長野は善光寺の宿坊に1泊だけする。
この内、添乗員が全員を連れて行かなくてはいけないのは、広島平和公園、平和記念館、厳島神社、倉敷歴史美観地区、姫路城、松本城、善光寺のお朝事くらいで、後はすべて自由行動となっている。これらをスキップして他へ行った旅行者もいた。
私は、インバウンドの添乗員としてこのツアーの成長に大いに貢献できたと思っている。また、インバウンドの添乗員として、はかりしれない経験を積むことができた。ノウハウの蓄積もできた。愛着のあるインバウンド・ツアーだと思っている。以下に、福岡から東京まで3週間のツアーを回想的にポイントを記したい。
2. 独立心や探求心旺盛な外国人観光客
このツアーは、オランダの旅行会社(A社)が企画し、旅行客を募集する。旅行客は主にオランダ人であるが、他のヨーロッパの国の人もいる。彼らは、決められた航空便で福岡空港へ向かう。添乗員はついてこないし、旅行客同士も知り合いではない。私は自分の事務所がA社からemailで送られてきた顧客リストをもって、ひとりで羽田空港から福岡空港へ向かう。
福岡空港では、A社の社旗を持って立っていると、入国審査を終えた旅行客が集まってくる。私は顧客リストと本人を照合する。中には、日本へ来る前に他の国を観光してくる人もいて、その人たちはすでに自分たちで福岡市内のホテルへ行き、市中を散策などしている。こういう点では、日本の海外旅行客に比べて、彼らは非常に独立心があり、手がかからない。日が暮れるころ、一同をホテルロビーに集め、日本的な結団式?を行ない、自己紹介などをして夕食へと向かう。
福岡は、お客さまが日本への第一歩を踏み出す地域だということを、いつも意識している。
彼らは日本へ来る前に、程度の差はあるが、日本のことをいろいろと勉強してきているさまがうかがえる。誰もが分厚い日本のガイドブックをもっており、蛍光ペンなどで、あちこちにマークをつけたり、ポストイットを貼付したりしている。
そのように事前勉強してきて、自分で描いてきた日本のイメージは、どのようになっているのだろうか?
それに応えてあげたい気持ちもあるし、いやいや、日本はガイドブックで説明されていない観光スポットや食べ物もあるんだよ、といった案内もしてあげたい。
オランダ人が日本へ初めてきて、最初の晩に何を食べたいか、あるいは、日本人としては何を食べてもらいたいか。これは思案のしどころである。
このツアーを何回もやっていると、福岡空港へついた時から、空港での彼らどうしの初対面のあいさつの仕方、国際線ビルから国内線ビルまでのシャトルバス内の雰囲気、地下鉄内の様子、ホテルへチェックインし部屋割りをしているときの、彼らの交流、そういうのを、こちらは目一杯、仕事中ではあるが、私はずっと観察している。
その時、その時によって、何というか、チームの熟成度合いのようなものがある。それによって、ああ、このグループはどんな食事処がいいのかを決めたりする。
人によっては、ベジタリアンであったり、グルテンフリーであったり、豚肉はダメだの、魚はダメだのと、いろいろあるが、そんなことをいちいち聞いていたら、添乗員はいくつ身体があっても面倒見きれない。
そういう彼らは、むしろ自分たちで自分たちの食事処を探したりする。ガイドブックやインターネットで見つけたレストランへは、どうやって行くのか、と聞いてくる。独立心や探求心が旺盛だ。海外旅行の日本人が何から何まで全部添乗員におんぶに抱っことは大違いだ。
3. 夕食は居酒屋に限る
さて、このサクラ・ツアーには、朝、昼および夕食がついていない。総じて、お客さまの年齢層は若く、20代から30代の独身者。これに50代、60代の夫婦が混じることもある。ま、エコノミー・ツアーなので、ホテルも二流クラスかな。
従って、朝食はホテル近隣のコンビニを案内しておく。コンビニの何たるかを案内し、主要コンビニ・チェーンやその全国数、また、セブン・イレブンでは自分のクレジット・カードで日本円が引き出せることなどを案内する。
予算に余裕のあるお客さまは、ホテルの朝食を有料で召し上がる。いくつかのホテルでは、簡単な食事がフリー・サービスとなっているので、全員が無料で利用できる。
夕食は楽しい。朝のうちに、その晩、私と夕食に行くお客さまの数を確認しておく。人数により、あそこがいいか、こっちがいいかを決め、予約を入れておく。何回も同じツアーに乗っているので、どの都市にはどんな飲食処が何処にあるかは承知しており、店長と懇意なお店もある。
無難なのは、「和民」とか「笑笑」あるいは「白木屋」といった全国チェーン店がいい。その理由は、メニューが大きく、きれいな商品(料理メニュー)写真なのでまさに「百聞は一見に如かず」で、こちらとしては多弁を要しない。値段も印刷されているので便利この上ない。上記のお店では、それぞれのメニューに英語説明がついている。早めに行けば予約なしでも席は確保できる。
商品の各店舗における標準化が進んでおり、各都市のどのお店でも品質にバラつきがなく、美味しく、値段も高くない。これは、助かる。新規店を開拓するときには、必ず、店長に会い、メニューをチェックし、英語表記の有無をチェックする。
こうした居酒屋は、外国人のお客さまには大好評で、皆さん、ワイワイ喜びながら注文品を決めている。お店によっては、タブレットがおいてあり、当然、英語バージョンへの切り替えも可能で、これまた人気である。テーブルでの割り勘代も表示できる。
4. 日本式飲食法を伝授
彼らは、ひとつのテーブルにみんなで座っても、自分のものを頼んだら、それしか食べない。注文品が遅く来た人は、それまで飲み物だけで我慢する。
「ねっ、それっておかしいでしょ、つらいでしょ。日本人はね、注文した食べ物は、みんなで分けあうんだよ。そうすれば、何種類も食べられるし、自分が注文したものが遅く来ても、ぜんぜん困らないでしょ。お酒は各自払い、食べ物は均等割り払い、これが日本的なやり方、いいでしょ」
みんな納得。以後、この方式が定着する。日本文化の定着、な~んちゃって。
支払いも、日本的やり方を提示する。彼らは、ひとりひとり、レジで、あるいはテーブルで払うものと思っている。また、添乗員によっては、自分が集金して、お釣りを出して、総額を自分がレジで払う。
これって、添乗員の仕事ではないでしょ。お店の仕事でしょ。お店の人も図々しくも,
「添乗員さん、まとめてください」
とか、平気で抜かす。集金や釣り銭戻しはお店の仕事であって、添乗員の仕事ではない。添乗員の研修にそんなのはない。
お店が、添乗員に勘定をまとめろというのは、お店から添乗員への依頼事であって、上から目線で添乗員に集金を指示したり、各自払い勘定なら入店拒否をする、というのは飲食店の傲慢である。添乗員分は無料にするとか、割引にするとか、手数料を払う、というなら筋が通る話だ。読者のなかに飲食店関係者がいらっしゃるなら、ぜひ、検討してほしいものだ。
5. 支払には彼ら自身で
私は支払いの時、テーブルごとに旅行者に会計を依頼する。つまり、まず、伝票はテーブルごとにする。支払いの時は、店からテーブルにひとつのトレー(お盆)を借りる。観光客には自分の代金をそのトレーに円で出してもらうのだ。お釣りもそこから自分でとってもらう。私は、テーブル毎のトレーを、チェックなんかしない。私の仕事ではないからだ。最後にすべてのトレーをそのまま、レジへ持っていき、レジ係に数えてもらう。これはレジの仕事だ。
トレーによっては、1円の狂いもない時もある。脱帽ものだ。初めての国にきて、その通貨を全然間違えないように計算するのはすごいことだと、自分が海外へ行った時の経験からも思う。
レジでは、全体で1,000円、2,000円くらいは狂っても仕方がない、と腹をくくっている。日本への初めて旅行に来て、誰だって、支払いを誤魔化そうと思う人はいない。一生懸命やっての結果のことだ。足りない時はその分を私が支払う。それは仕方ないでしょ。気が利くお客さまは「マサート、足りたか」とかいってくれる。
反対に、余ることもよくある。
「みんな、釣り銭、ちゃんととった? 余ったんだけど」と聞くと、
「役得だよ、とっておいてよ」
「そうだ、そうだ」
という具合になり、これはま、次回に繰り越しだな、という具合。
6. 外国人、お好み焼き大好き
さて、広島での夕食である。広島平和記念公園から東に、本通り商店街という577メートルのアーケードが伸びている。そこの東エンドのスターバックス前に、毎回、午後4時45分に集合としている。それまで各自、ガイドブックやインターネットを頼りに市内観光をしている。

こんな手書きの地図を彼らのWhatsApp(LINEとほぼ同じ機能)へ送ったりしている。
広島での最初の晩は、何といっても「広島お好み焼き」に限る。私も好きだし、今までの何百人のお客さまでも「美味くない」といった人はひとりもいない。

広島の「お好み村」。

広島お好み焼き店「将ちゃん」にて。筆者右端。

広島お好み焼き店「将ちゃん」にて。筆者の案内客。

広島お好み焼き店「将ちゃん」にて。筆者の案内客。
その本通り商店街東の出口至近にあるビルの2階、3階および4階を「お好み村」と呼び、合わせて24軒のお好み焼き屋さんが入っている。なぜ、午後4時45分に集合なのか。夕食なら、7時ごろでいいではないか、と普通の添乗員は考える。予約を入れればいいではないかと。
7時ごろといえば、お店では掻き入れ時である。お客さんには、食べ終わったら時間の隙間なく次から次へと入れ替わってもらわねばならない。外でも待っているし。そんな時間にお店の全席(15~16席)を貸し切りのような予約なんかは、お店としては受けられないのだ。お店の立場にたたなければいけない。
それを若い添乗員は、
「新津さんの名前を出しても予約できませんでした」
と言ってくる。当たり前でしょう。
午後4時45分に集合と行っても、全員が時間通りに集合してくれるとは限らない。ひとり、ふたりは「必ず」遅刻してくる。お店までは徒歩5分の距離だから、全員そろってお店に着くのは5時前後となる。食事時間はおおかた1時間だから、6時くらいには食べ終える。普通のお客さまは、そのころからちらほらお店に来るので、お店にとって私どもの売り上げは、臨時収入となり大いに歓迎なのである。若い添乗員は、この辺の知恵が回らない。自分中心に地球が回っているのだ。
早めに食事が終えても、そのあとは自由時間なので、街や商店街の散策には好都合なのだ。
7. まとめ
外国人観光客は、日本人の海外旅行客のように「あてがい扶持」を黙々と食べるようなことはしない。自分の食べたいものをガイドブックやインターネットで調べており、日本語もできないのにそのレストランへはどうやって行くのか、というように聞いてきて、自分たちだけで行こうとする。「そこまで連れていけ」とは言わないので、ガイドとしてはラクである。旅行者として自立しているのだ。
それに引き換え、日本人の海外旅行者はじつに手がかかる。彼らは基本的に彼らだけでは歩き回ろうとしない。金魚のフンのようにいつでも添乗員のケツをついて回る。
だからガイドとしては、その地方の代表的なレストランや、その土地の特産品を食べさせるレストランなどの場所や、どの何番線のバスに乗ればそこへ行けるかなどは十分研究しておく必要がある。
若いガイドは、こういう事前研究をしなくて、観光客に聞かれて初めて自分も一緒に迷っているようなところがある。私は、時間があるときには、ここはと思うレストランは一人で探求し、店を訪れ、店長に会い、メニューや英語メニューの存在を確認する。そういう「引き出し」が主要都市にはいくつもあるので、観光客のその手の質問には難なく対応できるのだ。
また、そんなところが観光客から最高評価を取り続けられるポイントなのかもしれない。
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※本記事は、著者が執筆した電子書籍『添乗員はつらいよ』【写真】を加筆・再構成したものです。
実際のツアー現場で起きた出来事や、その後の展開については、電子書籍でより詳しく紹介しています。

