「海外添乗員は旅行について行くだけの仕事」──そう思われがちですが、実際の業務はそれほど単純ではありません。安全管理、時間調整、クレーム対応、文化的配慮。表に出ない仕事が、旅の質を大きく左右します。私自身、現場に立って初めて理解したことが数多くありました。海外添乗員とは何を求められ、何を背負う仕事なのか。経験者の視点から、誤解されがちな実態を整理してお伝えします。
※本記事は、著者が執筆した電子書籍をもとに、加筆・再構成したものです。
※This article is adapted from my Kindle eBook by the author.
【contents】
1. 海外添乗員とは何をするのか
海外添乗員の仕事は、簡単にいうと「旅程管理」をする人だ。お客さま(旅行者)は海外であれ国内であれ、旅行代理店の発行している旅行パンフレットなどを見て、何日にはどこへ行くということを承知して代金を支払う。つまり、旅行の契約ができる。
その契約内容に従い、旅行者が安全かつ円滑に旅行できるように、旅行者の旅に同行して、契約した旅行代理店を代表して旅程を管理する事である。
もちろん、そのための資格を保持しなければならない。正式の名前は、「旅程管理主任者」というが、普通は「添乗員」という。ツアー・コンダクターとか、略してTCということもある。外国人客は私のことをツアー・リーダーと呼ぶこともある。勤務時間はいちおう朝8時から夜8時までであるが、実情は24時間の「臨戦態勢」である。
トイレの水が流れない、シャワーの水が濁っている、バスタブの水が室内へ流れてきた等々の水関連トラブル、テレビが映らない、充電器が壊れたといった電気関係、ホテルにあれこれ頼んでくれといった通訳業務、ま、海外旅行の添乗員の仕事は数え上げたらきりがない。トラブルがあれば、お客さまは自分のことだけだと思っているが、グループが20人、30人ともなれば、添乗員は寝る暇もない。
資格取得には、旅行業法により、以下の三つをクリアする必要がある。
- 観光庁長官に、登録申請を認可された機関が実施する旅程管理研修を修了すること(旅行業法第12条の11)。
- その前提条件として、一般的な禁固刑または相応の罰金刑を受けた場合や、以前に旅行業法等関連法案に違反した場合、5年以上経過していること等々がある(旅行業法第6条)。「前科者」でもいいんですね。
- 実務経験。①の研修後、1年以内に1回以上、または3年以内に2回以上(旅行業法第33条)
法的には以上の縛りがあり、現地での「観光ガイド業務」は含まない。といっても、海外旅行では観光のガイドは現地の観光ガイド任せで、添乗員は日程表を難なくこなせればそれで良いというものではない。いろいろなトラブルが発生し、その対応もひと苦労だ。
また、添乗業務には海外添乗と国内添乗があるが、国内添乗はさらに、日本人旅行者への添乗と、最近急増しているインバウンド(外国人旅行者)添乗がある。私は、日本人旅行者の国内添乗の経験はないが、これら三つの添乗業務の内、インバウンド添乗が一番難しいと思っているが、英会話力と同時に、日本の地理、歴史および一般常識にかかわる教養が必要だからだ。
いっぽう、一番やりがいがあると思っている。というのは、外国人と知り合いになれ、生々しい外国事情を知ることができるし、旅行後も国は離れてもデジタルで友達になれるからだ。また、リピートで来るから会いたいとか言ってきてくれるのも、インバウンド・ガイドの醍醐味である。
海外添乗は現地に日本語を話すガイドがいるし、日本語ですべて用が足りる。しかし、インバウンド添乗は、お客さまがすべて外国人なので四六時中英語対応となる。しかし、海外添乗ではいつも現地の観光ガイドとペアで仕事をするのではなくて、ひとりで旅程管理と観光ガイドをしなくてはならないこともある。
2. 海外添乗員は英会話ができると損?
海外観光の場合、現地のガイドには二種類ある。日本語を話せる現地人ガイドと、日本語はできなくて、英語を話す現地人ガイドだ。前者を業界ではJSG(ジャパニーズ・スピーキング・ガイド)、後者をESG(エングリッシュ・スピーキング・ガイド)という。
添乗員にしてみれば、JSGと組んで仕事をする方が、ESGと組むより圧倒的にやりやすい。英語を話せる添乗員は、しばしばESGが付いている旅行に乗せられる。
しかし問題は、ESGと組んで仕事をする場合、彼らの説明を通訳する業務が発生する。私が所属する事務所では、この通訳料は支給されない。
通訳をするということは、一つの説明に英語と日本語、つまり二倍の時間がかかるので、ツアーの行程管理上、ESGには説明はできるだけ簡潔に、と依頼する。お客さまにも、その旨を事前に説明し、必要部分だけを説明しますよ、と言っておく。しかし、ESGもメンツもあり、がっちりと説明する。
では、と、こちらでESGの説明を掻い摘んでお客さまに説明する。お客さまも、そんな、微に入り細に入る説明は求めていないのだ。すると、お客さまの中には英会話の堪能者もいらっしゃって、「通訳を飛ばしている」との指摘を受ける。意地の悪いことに、そのお客さまは旅行後のアンケートにそれを書く。私は、旅行代理店に呼び出され、子どものような若い係員から上から目線で叱責を受ける。結果的に翌半年間の日当に影響することになる。
こんなバカな話はない。
もっとバカバカしいのは、英会話ができない添乗員はJSGとしか仕事をしないので、通訳のことで叱責、減給を受けるという問題は発生しないことだ。海外旅行の添乗員だからといって、全員が英会話ができるとは限らない。ベテラン添乗員で、英会話なんかできなくても、現地のJSGを通訳代わりに使えば、英語的に何の不自由もないのだ。
そして、彼女らは事務所の中で日当的に高いランクを維持できる。もとより、彼女らには何の落ち度もない。事務所の中では、英会話は苦手です、で通しておくに限るのだ。ひとつの才能(英会話能力)が負に作用する、こんなシステムは人にやる気をなくさせる。
3. アンケート評価で決まる日当
私は、今の事務所で最初は海外添乗をしていた。しかし、その後、インバウンド(外国人旅行者)の仕事だけをすることにした。
海外添乗に嫌気をさしたのは、お客さまの、つまり日本人客、その大部分は中高年の女性客が、全員とは言わないが、鼻持ちならなかったからだ。
添乗業務は上司のいない業務で、お客さまの旅行後のアンケートが唯一の業務評価になる。旅行後のアンケート用紙の質問の中に、「添乗員について」という項目があるでしょう。旅行者は旅行後に、添乗員の業務内容につき、5から1まで「大変良い」「良い」「普通」「良くない」そして「大変悪い」の5段階評価をする。
意見を書く欄もある。海外添乗では、心無い女性客にアンケートで「酷評」を書かれ、これを読んだ旅行代理店に呼び出され、「尋問」を受け、「上から目線」で「常識も弁(わきまえ)えないような若い社員」に叱りつけられ、自尊心をメタメタにされる。そんなことが重なって、私はもう、海外旅行に乗る気がしなくなったのだ。私が所属する事務所では、翌半年間の添乗員の日当は、気まぐれなお客さまのアンケート評価で決まるのだ。添乗員はつらいよ!
4. 海外添乗員の仕事
さて、海外添乗員は、どのような仕事をするのだろうか? わかりやすく時系列的にわかりやすく説明する。
【往路】
- 業務委託:添乗先の決定。旅行代理店から所属事務所へ業務委託が電子メールなどである。
- 業務割当:事務所の社長なり、係員がその業務を添乗員に割り当てる。
- 顧客コンタクト:添乗員は顧客リストをもとに顧客へ電話をし、着任の挨拶などをする。
- 空港業務①:出発日当日。添乗員は空港へ向かう。利用機種が予定通り運航しているか空港の案内板で確認する。
- 空港業務②:空港ビル内の関連会社へ出向き、集団ガイド用のイヤホンなどを受け取る。
- 空港業務③:空港ビル内の旅行者受付カウンターへ行き、旅行名案内表示の掲出、参加者リストの確認などをする。
- 空港業務④:時間が来たらチェックイン業務(参加者リストと本人、パスポートの確認)を開始する。
- 空港業務⑤:チェックインが終了したら、その場で全体ミーテイング。添乗員、参加者それぞれ自己紹介。機内や乗換え、現地での両替、旅行中の諸注意(いきわたっている印刷物の確認)。
- 空港業務⑥:出国手続き。そこまでの引率。
- 機内業務①:客の着席確認。
- 機内業務②:客の健康状態の確認。
- トランジット(乗換え)業務①:降機人員確認
- トランジット(乗換え)業務②:乗換え口まで引率
- トランジット(乗換え)業務③:乗り込み人員確認
- 到着空港業務①:降機人員確認
- 到着空港業務②:入国案内
- 到着空港業務③:引き取り荷物場案内
- 到着空港業務④:両替案内
- 到着空港業務⑤:現地ガイド紹介(英語だけなのか、日本語もできるかなども紹介する)
- 到着空港業務⑥:ホテル行バス案内
- ホテルにて:事務処理
- 客を部屋へ案内
【復路】
- ホテル業務①:出発人員確認
- ホテル業務②:忘れ物確認
- ホテル業務③:ホテルとの事務処理
- 帰路空港業務①:人員確認
- 帰路空港業務②:出国ゲートへ案内⇒出国事務
- 帰路空港業務③:搭乗ゲートへ案内⇒人員確認⇒搭乗
- 機内業務①:客の着席確認。
- 機内業務②:客の健康状態の確認。
- 機内業務③:アンケートの回収(封筒に入って封印してある)
【帰着空港業務】
- 到着人員確認
- 事務所へ帰国を電話報告
- 荷物引き取り案内
- 荷物等宅急便の案内
- 観光イヤホン、名札等回収
- 入国審査案内
- 観光イヤホン等返却
【帰国後事務処理】
- 旅行代理店にて帰国事務処理(経理、チップ、ほか)
- 事務所にて、報告書作成
大まかに以上のような業務がある。
5. まとめ
海外添乗員は、希望者は誰でも必要な座学の講習を受ければなれる。2~3日の講習の後に試験があるが、落ちる人はいない。添乗員(海外/国内)は、8割、9割方派遣業務で旅行代理店の社員がしていることは少ない。また、女性が9割くらいで、私のように男性の添乗員は少ない。ましてや、70歳近くなってから始めるなんて極めてまれである。
添乗員の派遣会社(海外/国内)は東京には20~30社くらいはあるであろう。インターネットで調べて応募すれば、講座の受講を勧められる。自分の希望で、海外添乗員か国内の添乗員かを決めれば良い。英会話はできなくても、あるいはミーハー英会話の能力でも、海外添乗員にはなれる。現地には日本語を話せる、あるいは日本語で観光ガイドができる外国人ガイドはたくさんいる。
添乗員派遣会社が欲しい人材は、英語ができる人ではなく、お客さんの面倒見が良い人だ。
なお、全国通訳案内士というのは国家資格で、合格率も10%以下と言われている。筆記の英語はもとより、英会話や日本の歴史、地理などの試験がある。
添乗員は、どこかの事務所の所属になり、そこの給与体系に組み込まれる。フリーランス(自営業)では仕事は取れないだろう。全国通訳案内士は基本的にフリーランスで、自分で時給を設定できるが、仕事は自分でインターネットなどで探すことになる。それが苦手な人は、旅行代理店や添乗員派遣事務所に所属して仕事をすることになる。
6. Amazon.com 書籍通販で好評発売中(電子書籍&紙書籍)

※本記事は、著者が執筆した電子書籍『添乗員はつらいよ』【写真】を加筆・再構成したものです。
実際のツアー現場で起きた出来事や、その後の展開については、電子書籍でより詳しく紹介しています。

