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英会話不自由でもひとりで海外出張
この会社(Goodyear Japan)へ来て、ほとんど海外へ行かなくなった。以前はよく行った。あまり頻繁だと、 仕事が詰まって往生する。 年に1~2回くらいなら気分転換になっていい。
海外出張は、バブル景気(1986-1991年)以前は大体1~2人で行く。 すると英会話の力は、その出張グループのうち1人位は外国の大学を出ているとか、 海外生活の経験があるとかで、 上手い。そうでない方は、
「わざわざ、 下手な俺が話すこたねえ」
といじけて(?)、道中ずっと話さない。だから外資系の広告代理店にも、英語が思うように話せない社員はいくらでもいる。 しかし、世間じゃそうは思わない。 そこが辛いところよ。
私も、その辛い一人になるところだったが、ハッタリが災いして、今日にいたっている。
あるとき、新たに担当となったばかりのクライアント (お得意先) の課長が、
「トンプソンさん(私の勤務先名=J.W.Thompson Japan)の方だから、 英語は大丈夫ですな」
ときた。 よっ、よよ….。
「はい。大丈夫です」。
そう言うしか、仕様がないじゃんか。
何たって、外資系広告代理店の営業部次長だ。 この機に及んで「ノー」とはいえない。
「じゃ、急だけど来週ひとりでアメリカへいってください」
「はっ?」
こうして、私の英語の On the job training (しかも一人で)が始まった。
その後クライアントが変わっても、私の海外出張はすべて一人だった。 これにはなかなか辛いものがある。 何人かで行けば、解らないことは仲間内で日本語で確認できる。 一人ではこれができない。 英語で外国人に聞き返すと、 もっと解らなくなってしまうこともある。
また、海外出張中は四六時中英語だ。 英語の会議が終わってホテルの部屋へ帰ってくる。 テレビを点けるとまた英語。 仲間がいないので、息抜きができない。 で、 気づいてみると、持参した梅干しをしゃぶりながら、 部屋の中を日本語をぶつぶつ言いながら、檻の中のクマのようにウロウロしているわけ。
閑話休題。私の海外出張に必要な「三種の神器」は、梅干し、日本茶のティーバッグ、それにスティック醤油だ。
さて、実情を知らない人からみれば、海外出張はカッコ良くもあるが、実はいろいろあって大変なのだ。往路の機内では、マイルス・デビスとかフュージョン系のテープをたくさんもって行って聞く。当時はまだCDなどはなかった。携帯電話もスマホも無かったのだ。帰りはクタクタでそれどころじゃない。 機内オーディオで石川さゆりとか森進一の歌謡曲を聞いて、
「ああ、私は日本人だなぁ」
と『小沢昭一的こころ』で、しみじみ思ったものであります。当時、『小沢昭一的こころ』はTBSラジオで1973 – 2012年に放送されたトーク番組。レトロ昭和のおじさんの心境を吐露するので、とても人気があった。
こころ癒される帰国時のCA
こうした英語漬けの海外出張でクタクタになった気持ちを慰めてくれるのが、 スチュワーデスである。スチュワーデスは女性を指すので、いまではcabin attendant とかflight attndantと中性名詞を使い、男性のstewardもそう呼ばれるようになった。
したがって、帰国便はJALに限る。
「お疲れさまでした。 お茶になさいますか。 コーヒーにいたしますか?」
おう、久しぶりに聞く大和撫子チャンの優しい声。 普段は、 彼女らの所作は営業笑いだなんだと難癖をつけるくせに、この時は別だ。
「うん。 どちらでもいいよぉん」
と、 映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんになっちゃう。
外国便では、こうは行かない。 コーヒーポットとティーポットを両手にひとつずつ持ったキャビンアテンダントが、
「ティーオカフィ、ティーオカフィ(tea or coffee)」と聞い回り、好みの方の飲み物をハネが上がる勢いでジョボジョボと注いで回る。乗客はまるで養鶏場の鶏みたいだ (私は酉年だけど)。殺伐としている。 ウェットじゃない。あまりにもドライだ。
いろいろ乗ったエアラインの中で、最高だったのはSQと呼ばれるシンガポール航空だ。 SQはIATA(国際航空運送協会)が決めたシンガポール航空の航空会社コード。このビジネスクラスで米国西海岸へ2往復したことがある。 何がいいか。 スチュワーデスの接客だ。
SQのユニフォーム。
訳知りの説明によると、 彼女達の半分くらいは専業ではない。 大学生、といっても発展上 の大学生は、日本の粗製乱造の大学生と違って、その国ではエリートクラスなのだ。 外国人に慣れるために実習として飛行機に乗る。 実習後は、そのまけて続けてもいいし、外務省などの政府高官になっても良いそうだ。
こういうことがあった。 私がエア・チケットの予約を行代理店に頼むときの条件は、禁煙、通路側、扉の直後だ。窓側でなくて通路側なのは、窓側だとトイレや長時間飛行の時の機内散歩、スチュワーデスを呼んだときなどは隣で眠っている人を起こさなくてもすむからだ。
私はそういうことに横柄でいられないタチなのです。国内線と違って、長い時間乗る国際線では、 これは大事なポイントだ。
扉の直後は、出入りがラクだし、足を(それほど長くもないが) 十分伸ばせるのがメリット。
ある時、ビジネス・クラスの機内の床に、持ち込んだ新聞や雑誌やら脱いだ靴を、足元に円形型に置いておいた。 西洋的には靴を脱ぐことは、下着姿になるようなものなので、控えるのが常識だ。とくに女性は気を付けた方がいい。それを承知で靴を脱いでいた。
私の靴を蹴とばしたCA
そこへ両手に食事だか、お茶をもってきたキャビンアテンダント。 私の足元を見て困惑の表情。サービスができないではないかと。でも心配には及ばなかった。お盆で両手がふさがっていた彼女、自分の片足で私のスニーカーをバシッと蹴とばしたのだ。
「おっ。 おおー、 なんだ、なんだ」
あまりの爽やかさ。あまりの奇想天外さ。 日本のキャビンアテンダントだったら、 そんなことは思いもつかないだろうし、もしそんなことをしたら、私の方で一言いうところだが、この時はそんな気はまったく起こらな った。
もうひとついい点は、健気(ケナゲ)で一生懸命なことだ。客のいうことを聞きのがすまいとして夢中なのである。媚を売ったりしないし営業ずれしていない。日本の真面目な女子高生のようだ。
また一生懸命なのか国民性なのか解らないが、 胸元あたりがなんとも無防備なのだ。 スカートは前で浅く合わせるタイプだが、歩くと膝上までの素肌が見える。当方の客席へ来て、跪(ヒザマヅ)いて話をするものだから、下着が見えやしまいかと思うくらいセクシーである。SQの広告によく出ているあのコスチュームだ。
私の隣に座った名の知れたジャーナリストは、
「これが楽しみでね」
と、何回もスチュワー デスを呼び、解ったような質問をしたり、ワインを持ってこさせたりした。 しかし、通路側にいたのは私だから、もちろん私もそのたびに、至近距離から十分楽しませていただいた。 最後に彼は私に言った。
「たびたびで恐縮です。もしよろしかったら席を替わっていただけませんか」
だと。
マレーシア航空もほぼ同じといえるが、こちらのスチュワーデスはもう少し大人っぽい。
こうした健気さを持っているのは、あと大韓航空(KE)とアエロフロート(SU=ソ連航空=当時)。両方とも、スチュワーデスは良家の子女のお嬢様という感じ。 スレていなくて、一生懸命だった。 SUのスチュ ワーデスは英語もあまり上手ではなかった。
KLMオランダ航空にはアテネ~アムステルダム間を 乗ったが、何か白くてすごい大女が木靴を履いていたように思う。機内のお土産セットに可愛い陶器の鍋敷きがあって、これはいまでも使っている。
ノースウェストには香港へ行ったときに乗ったけど、機内ドリンクが有料だったりスチュワーデスの態度もそっけなく気分的にはそれほどハイにならなかった。アメリカ人って、そうなんだよね。
まとめ
海外出張は、たとえ英会話が上手になってもいろいろと疲れるものだ。
そんな海外出張の帰路のフライトでは、どのようなキャビンアテンダントが担当になるかは、極めて重要だ。国内線と違い、長時間だけにその良否は大切である。
私は帰路のフライトは、できることなら、食事の点でJAL、精神的快適さでSQを選びたい。
キャビンアテンダントとは関係ないが、私は出国時の空港での食事は寿司、帰国時はラーメンを食べることが何回かの海外出張で決め事のようになってきた。