SNSとハーレクイン・ロマンス小説

NEWPORT通信

e-mail全盛という感がある(1999年頃)。とくに20~30 歳代の女性の間では私信用として必須アイテムのようだ。e-mail以外にはたいして必要とも思われないのに、20万円前後もするノ-トパソコンをアイスクリ-ムでも買うような気安さで買う。

*******************************************
『NEWPORT通信』へようこそ!
『NEWPORT通信』は、各号(#)が独立した内容なので、どの号(#)からお読みになってもお楽しみいただけますが、まず最初に、
#1 背景と総目次
をお読みいただくことをお勧めいたします。
『NEWPORT通信』の誕生のいきさつと、全号の見出し一覧がご覧いただけます。
*******************************************


映画『You’ve got m@il』から。

スポンサーリンク

いきなり奥座敷へ

先日も、若い女性の飲み会に声をかけられノコノコ出かけていった。そしたら、多分全員がe-mailの常用者であった。

時差がある海外とのコレポンなど、実用的には便利だと思うが、国内の、しかも私用となると、どうも合点がいかない。というようなことを若い常用者に話すと、いろいろと効能を聞かせてくれる。

それはそれで解っているが、e-mailというと、どうも人と人との心の通じ合いという点で、何か体内にステンレスかプラスチック製の人工臓器でも埋め込まれたようでしっくりしない。人に喜びを伝えるときには、会ってでも、電話ででも、郵便ででも、何ででも問題はなかろう。

ところが詫びをするときや、心のうちを打ち明けるときは、これら古くからある通信手段では非常な努力が必要であり、いきつ戻りつの迷いもある。

ところがe-mailはどうだろう。作文中は若干の煩悶はあろう。しかし、書き終わったら実行キ-をポンと押せば、その指をあげた途端にメッセ-ジは相手のパソコンの中である。

会うときの戸惑いや、電話でのどうしようもない沈黙の空間もなく、あるいはまた、書き上げた手紙をポストへ投函すべきかどうかの迷いもない。大胆にいえば、e-mailというのは実にずうずうしく相手の家の奥座敷へ何の苦労もなく入れるのだ。

スポンサーリンク

日本的「察しの美学」

しかも、ファックスや葉書のように衆人の目に曝されることもない。何かおかしくないだろうか。メッセ-ジは確実に伝わる。しかし、筆跡も解らず、涙文字もわからず、それに心理を反映した文字の乱れもない。それでいいのだろうか。

そこを私はいいたいのだ。私たち日本人には、外国人より数段優れた「察しの美学」をもっている。会っていれば言葉少なであっても相手の気持ちはわかるものだし、文字や筆跡からは、書かれた言葉の意味だけではなく、先方が貴重な時間を、私のためにわざわざさいてくれた、その心の温もりを感じ取ることもできる。

e-mailは、遊びの機械としては面白かろう。私信用としてのe-mailにそれ以上の意味を見出せないでいる。

映画「You’ve got m@il 」

【追伸】
先日、e-mailを道具にした話題の映画「You’ve got m@il 」(e-mail着信アリの意味)を見てきました。良心的で小さな子供用書店を営む女性と、その側に利益一本槍の本のス-パ-ストアを建てた男は、現実の世界では顔見知りとなって、いろいろとわたりあう。
この二人は、私生活はまったく無関係なのだが、じつはe-mailで知り合い、お互いに信頼しあっている。
二人のe-mail交信では職業や本名を明かさないことにしているので、日常の現実では利害関係で対立しているのに、e-mail交信ではお互いに恋心が芽生える、と言う筋建て。

この映画はe-mail同様、味もそっけもないハ-レ-クインロマンス(*)のようで、濡れ場も二人がストリ-トで一回キスするくらいで高校生でもOKのまったくのホ-ムドラマであった。でも、土曜の9時30分第1回目の上映は7割の入り。若いカップルが圧倒的に多く(朝早くからエライ)、もちろん私は最年長だったと思う。

ハーレクイン・ロマンス

(*) ハーレクインは1945年にカナダのトロントで設立された出版社。出版物は、キャリアウーマンの恋と成功を描いた娯楽小説に特化している。

日本には1979年に上陸し、その時の広告代理店が私が在籍していたJ.W.トンプソン(JWT)だった。

同社の販売の特長は、日本の出版業界では、出版された書籍は取次店を通して一般書店へ配送され、売れない場合は書店はその書籍を返品できるという委託販売形式をとっているのに対して、同社は、書籍を一般の包装商品(package goods)のように買取り形式をとっていた点である。したがって、取次店を通さず、同社日本支社から大手書店への直売方式をとった。

当時JWTには、このような出版界の実情に精通した人材はおらず、私がその背景を社内の関係者にブリーフィングした。私は、クラス・マガジンの編集者であったし、小さい出版社を立ち上げ、東販、日販ほか大手の取次店とも取引があったので、出版業界には十分な経験があった。

人のこころを感じ取る

【いま振り返ると】
上記のエッセイは1990年ころ、つまりいまから約30年前に書いたものです。
まだ、スマホどころか携帯電話さえ無かったころの話です。

現在では、e-mailはむしろ古い感じの通信手段になり、SNSといわれるLINEやInstagram、WhatsAPP、Twitterなどが全盛となっています。

しかし、当時私が感じていたことは、やはり人と人の交流の中では以前からある通信手段は大事な要素だということです。e-mailはビジネス的で機能一本槍の便利な通信手段ですが、個人間では人の心の襞が感じ取れるような交流を大事にしたいと思います。

 

スポンサーリンク