登山初心者向け 初めての雪山の楽しみ方

健康/スポーツ/アウトドア

神奈川県育ちの私には、年に1,2回くらいしか降らない雪は古希を過ぎた今もなお嬉しいです。
しかし昔、雪国育ちの先輩に睨まれたことがあります。「雪は生活の敵だ!」と。

それはそうですが、ここではこれから山歩きを楽しもう、という登山初心者の方々に、少し積もった山歩きの楽しみ方をご案内します。

本稿を読了することにより、くるぶしくらいまでの積雪のある日帰り低山の歩き方、安全対策などがわかるようになります。

ひとり歩き(単独行)も良いですが、できることなら経験者と一緒、初心者だけの場合は最低でも二人以上で行き、楽しみは皆さんで分けあい、非常事態の時は皆さんで助け合いましょう。

登山歴年60年以上の経験からご案内します。




八ヶ岳にて筆者。

1. 無雪時に登った山に行くこと

ここでいう雪山とは、積雪がくるぶし程度の初心者向けの日帰り低山の雪道です。都市部でちょっと寒いな、と感じた時は山は雪です。ですから、下記に挙げた5つのコースは1、2月にはしばしば降雪があります。

よく、写真や動画で見るように、膝まであるような雪山を想定していません。ほんの初心者向けの雪山歩きです。

まずは、雪がない時に歩いた山へ行きましょう。一度も行ったことがないのに、ガイドブックやウェブで見てよかったから、といきなり知らない雪山に行くのは危険です。

夏山を歩いていなくては、積雪期の地形がわかりません。初心者では地図読みだけで雪山の地形を理解するのは難しいでしょう。道迷いや滑落した時にも、夏山の経験があれば、ないよりぜんぜん良いです。

また、夏山に行っていれば、積雪時と比較して歩ける楽しさもあります。

また、単独行よりも二人以上の方が非常時に相互支援ができます。

2. お勧め低山コース4選

ここでは、JR青梅線沿線の東京近郊の山々をご紹介します。雪のない時にいちど歩いてきてください。位置的な概念図は以下のようになります。

詳細地図と案内書は、高尾山以外は、昭文社の「山と高原地図」の「奥多摩」編に入っています。詳細はこちら
高尾山の地図はこちら
標準のコースタイムが同じ区間でも、上り、下り別に掲載されています。
自分の登山力(体力・経験)に合わせて登山計画を立てましょう。


このくらいの積雪のイメージです。写真は筆者です。

1)高尾山

【アクセス】
東京・新宿駅からは京王線利用が便利です。JR中央線沿線にお住まいの方は、「高尾」駅で京王線高尾山口行に構内乗り換えできます。

特急で新宿から乗り換えなしで「高尾山口」まで46分です。新宿発6:57が一番早い特急です。7:43に高尾山口駅着です。運賃は大人一人片道390円です。

【登山路】
ケーブルカ―の麓の駅「清滝駅」のすぐ左側から登り始める「稲荷山コース」が最適です。

登り3.1km、歩き始めから頂上までのコースタイムは標準で90分です。
途中の四阿(あずまや)までは、チョットきつい登りですが、そこから先はなだらかな登りで、雪山歩きの楽しさを十分味わえます。

四阿から東京方面の眺望は素晴らしく、新宿の副都心高層ビル、横浜ランドマークタワー、そして東京スカイツリーなどがよく見えます。

頂上直下には200段の階段があり、ちょっとしたアルバイトとなります。アルバイトとはドイツ語で「労働」のことですが、山用語としては急登で労力を使わされることをアルバイトをさせられた、といいます。

この200段をクリアすると頂上です。登って左側が西側になり、富士山がとてもきれいに見えます。

下りは高尾山薬王院からケーブルカーの駅を通過し、1号路を下るといいでしょう。1号路は除雪され全行程ほぼほぼアスファルト舗装なので、アイゼンなどは外して歩きます。

2)川乗山

【アクセス】
東京・新宿駅からはJR中央線青梅特快が便利。青梅まで行き(約1時間)、そこで各駅停車で終点「奥多摩駅」まで約40分。駅前バスターミナルから「日原(にっぱら)」行バスで15分、「川乗山」で下車。

【登山路】
ここから歩きです。林道をしばらく歩きます。途中から山に入ります。バス停から1時間30分で「百尋(ひゃくひろ)ノ滝」に到着です。落差40メートルの名瀑です。私は、何回もこの山へ登りましたが、だいたいここで早めの昼飯です。ラーメンを作ります【写真】

ひと尋は約1.5メートルなので、百尋といったら150メートル。実際には40メートルですから、ま、大きな滝、くらいの意味でしょうね。

無雪期には、この滝から約2時間で頂上へ着きますが、道に雪があるときには、十分余裕をもって登山計画を立てましょう。

頂上からの下りは、JR青梅線の「奥多摩」駅、「鳩ノ巣」駅、そして「古里」駅などへ降りられますが、約2時間で「鳩ノ巣」駅に降りるコースが最短時間でお勧め。南斜面を下ることになるので、雪解けや、霜解けで、道はグチャグチャで足を取られやすいので注意を要します。

なお、「川乗山」はほんらい「川苔山」が正しい表記です。

3)鹿倉山

【アクセス】
東京・新宿駅からJR奥多摩駅までは2)川乗山と同じ。
奥多摩駅のバス・ターミナルからは【2番線】から【奥09~12系統】に乗車、約30分の「深山橋」バス停下車。

【登山路】
バスを降りたら奥多摩湖にかかる大きな「深山橋」を渡ります。渡り終わった右側に「陣屋」という食堂があり、その脇が登山口になります。

ここから1時間30分で「大山寺」(982m)頂上、ここからはなだらかな登りを1時間45分歩くと鹿倉(ししくら)山(1,288m)へ着きます。天候に恵まれれば、眺望抜群のコースです。

頂上から約2時間下ると、そこは山梨県の丹波山(たばやま)村です。温泉などもありますが、奥多摩駅までバスでは1時間10分かかりますので、バスの時刻を確認してから入浴するといいでしょう。


鹿倉山山中にて筆者。

【東日本大震災】

私はその日にこの雪山に登っており、震災発生時の14時46分には遅めの昼飯を、雪を踏みしめて場所を確保したところでコンロで調理して食べていたところでした。

普通、山では地震はあまり感じませんが、その時は、周りの木々がワサワサと激しく揺れ、地面も揺れ、私は山が崩れるのではないかと恐れました。同行の妻を落ち着かせ、急いで荷物をまとめ、転がるように雪道の山を大急ぎで丹波山村まで下りました。

ラジオもなく、私は当時噂されていた東海大地震だと思っていました。村の登山客相手の施設では、信じられないような津波の脅威がテレビに映されていました。

幸いにもJR奥多摩駅までの道路は、崩落などがなくバスは無事、奥多摩駅まで到着しました。しかし、JR青梅線は全線運休。やっとの思いで、とある旅館の布団部屋のようなところへ泊めていただきました。

町役場から各宿泊施設には、登山客をどこでも良いから泊めさせるように通達が出ていたそうです。翌朝も、JR線は始発から運休、ようやく昼頃から動き始めました。大変な経験でした。

4)御岳山ー日ノ出山

【アクセス】
この山もJR青梅線沿線にあり、人気のある日帰りコースです。
JR青梅線の「御岳」駅から御岳山行のバスに乗ります。乗り場は一か所なので間違えることはありません。バスは10分で「ケーブル下」へ着きます。

【登山路】
ケーブル下から上の御岳山駅へは、歩くと1時間30分です。ケーブルカー御岳山駅を降りてから山頂の武蔵御嶽神社までは約30分かかります。

同神社から隣の日ノ出山までは約40分、ほぼ平らです。ここからの東京方面の眺望は抜群で、とくに冬は空気が澄んでいるため、東京スカイツリーなども確認できます。新年の初日の出を見る地点としてよく知られています。

日ノ出山の頂上からは約1時間20分で「生涯青春の湯つるつる温泉」に着きます。飲食もでき、温泉にも入れます。ここからはJR五日市線の終点「武蔵五日市」駅まで、バスで25分ですが、この路線バスには珍しい「機関車型バス青春号」【写真】が運行しています。

3. 日程の基本

時間にゆとりを

当然のことですが、雪道を歩くので、所要時間はガイドブックなどに書いてある時間の、少なくとも1.5倍はみましょう。また、雪道を歩く珍しさで、写真を撮ったり、多少遊んだりもするでしょうから、所要時間は十分に見ておきましょう。

早朝に出る

山歩きでは、午後3時までには下山する、あるいは山小屋へ到着する、というのは「山の鉄則」です。

歩行中にどのような突発事故が発生するかわかりませんし、秋冬の日暮れは早いので午後3時までに山歩きを終了しましょう。

となると、行動時間は限られてくるので、自宅発は最寄り駅の始発電車に乗ることです。鉄道から離れている所に住んでいる人は、バスの始発はまだでしょうからタクシーなどの予約をする必要があります。

山は、午前中はまだ空気が冷えていますから、見通しがききます。午後になると地面や大気が熱せられて水蒸気が上がり、遠望はきかなくなります。

4. 装備はどうする

足回り

同じ山野を歩くにも、登山といったりトレッキングと言ったり、あるいはハイキングといったりもします。その違いを簡単にいうと、
登山は一応山頂を目指す、
トレッキングは、山頂を目指さないこともあり、自然を楽しむのが主目的、
そして、
ハイキングは、山野も歩くけど平地の自然の中を歩くこともある、
ではないでしょうか。

【登山靴】
そのために、それぞれ足にかかる負荷により、あるいは路面の状況(岩でゴツゴツ、岩道や瓦礫道、野原的な優しい道)に応じた靴があるので、自分の目的に適した登山靴を選ぶといいでしょう。

【登山靴の種類】
足首の部分の高さにより、高い順にハイカット、ミドル(ミッド)カット、そしてローカットの3種類があります。ハイカットやミドルカットは、路面のデコボコなどがら足首を守るようにできています。靴底も硬い仕上がりになっていて、路面の状況を足に伝えにくくしてあり、疲れにくくできています。

ローカットは、簡単にいえば頑丈に作られたスニーカーのようなもので、足首の自由感もあり、街歩きにも兼用できます。

登山初心者にはミドルカットをお勧めします。ローカットの靴では、雪道は無理です。雪や泥が靴に入ってしまいます。

どのサイズが自分の足に合うかは、登山用品店へいって専門的な知識を持っている店員さんに聞いたらいいでしょう。一般的には、お店にある登山用靴下を履き、紐を緩めた登山靴に足を入れ、つま先が先端に届く状態で、踵の後ろに指1本が入るサイズが最適といわれています。

ミドルカットの登山靴の例は以下をご参照ください。



【アイゼン】
アイゼンとはドイツ語で「シュタイク(登る)アイゼン(鉄)」のことで、氷や雪の上を歩くときに滑り止めとして靴底に装着する、金属製の爪が付いた登山用具のことです。日本語ではアイゼンだけが独り歩きしています。

簡易的な4ツ爪のものから、6本爪(あるいはそれ以上)のものもありますが、初心者が浅い雪道を歩くには4本爪で十分です。



私が使っているアイゼンです。
上:6本爪、下:4本爪。


6本爪装着時。

【スパッツ】
スパッツは、登山靴の足首周りから小石や雨、泥、雪、それに枯れ葉や小枝などが靴に入ってくるのを防ぎます。ショートとロングがあり、季節や行く山のレベルによって使い分けます。
泥道では、ズボンの汚れを防げます。

ロングです。

ショートです。

【ストック】
登山は基本的に2本足で歩くようにします。ストックは、2本足でバランスをとるときの補助具として考えるべきです。上りでも下りでも、ストックで地点を確認しながら使います。ストックを3本目の足のように、力を使って頼りにして使うとかえって疲れます。

ひとりで2本のストックを使う人もいます。自分の好みです。

形状に2種類あります。手で握る部分がT字型のものと、I 字型のものです。自分が使いやすい方を選んだらいいでしょう。

素材には3種類あります。
カーボン素材:折れやすくても超軽量重視

ジュラルミン素材:重くても丈夫さを重視

アルミニウム素材:軽くて曲がりやすいが安価

防寒具・雨具

【防寒具・雨具】
ここでいう防寒具・雨具とは、雨天や寒い冬の早朝に、一番上に着るものです。
素材そのものに防寒機能はないですが、これを一番上に着ることで、雨風をよけられるし、その下に空気の層ができるので断熱性が高くなります。

ビバーク(緊急的な野営)では必須で、これの有る無しは命にかかわります。夏でも高山に行くときは必須で、朝晩の小屋生活には欠かせません。

ここでご紹介している雪道歩きにも、歩き初めには必要でしょう。歩き始めて身体が温まったら脱ぎます。休憩時にはさっと羽織って、身体の保温に留意します。

最近は経済状況を反映してか、暗っぽい色のものが出回っていますが、遭難した時の発見しやすさの点からは、できるだけ派手な色を勧めます。

【手袋】
冬の山歩きには必須です。風を通さないこと、防水性であること、丈夫な素材であること、などが選定のポイントです。

炊事道具

雪山歩きの楽しみの一つは、野性味あふれる野外料理でしょう。たとえラーメンだとしても、山の上で作ったものは最高です。

【食材】
ゆで卵や海苔、メンマなどトッピングは自分の好きなものを持参しましょう。
焼肉も下味にひと晩漬け込んで持っていき、山の上では温めるだけ、これも絶品です。

スペアリブなどもあらかじめ下味をつけ、電子レンジで簡単に加熱して持っていき、山の上ではそれをチリチリ焼くだけでとても美味しいです。

【コンロ】
そのために必要なのは、まずコンロです。燃料カートリッジを回して取り付けて使います。

下記は普通の山屋さんが使っている標準的なものです。

もっと安いものもあります。

燃料カートリッジは別売りです。

基本的にガスコンロと同じメ-カーのカートリッジを使うのが基本です。

カートリッジの数字が大きく250とか500とあるのは、内容量で単位はグラムです。
どこのメーカーも250g缶で1時間、500g缶で2時間くらい持ちます。
パワーは3種類あり、250とか500の数字の上に、
「NORMAL GAS」
「POWER GAS」
「ULTRA GAS」
と書かれています。上の写真に「ULTRA GAS」はありません。

これは使用するときの外気温で使い分けるのですが、初心者の日帰り登山なら、雪があっても「POWER GAS」で十分です。0℃-20℃まで使えます。20℃以上、つまり下記の山では「NORMAL GAS」がいいです。

【コッヘル】
コッヘルとは、登山など屋外で使用される調理器具です。語源はドイツ語のKocherです。重量を軽くするためにアルミ製が多いです。いろいろな容器を組み合わせたものもありますが、写真のように蓋をフライパンとしても使えるのが便利です。

私は、家庭用の下の商品のような鍋を使っています。蓋のつまみや取っ手はネジを緩めれば外れます。使いやすいし、安いです(笑)。

非常食

夏山であれ、冬山であれ、たとえ日帰りであっても、「非常食」携行は必須です。山では天候の急変他、怪我や体調不良など何が起こるかわかりません。

仮にビバーク(緊急の野営)を余儀なくされた場合には、非常食様様です。小さくて高カロリーのものをいくつか持っていけばいいでしょう。非常事態が起こらなければ、帰りの電車で酒のツマミにするといいでしょう。

私は、下記のようなものをどれか持っていきます。
チーズ、チョコレート、羊かん、リンゴ、みかん、カロリーメイト、栄養ジェルなど。

救急セット

私は、救急セットを持ち歩いていますが、幸いなことに自分で使った記憶はありません。他の登山客がけがをした時に使ったことはあります。「山岳添乗員」の資格を持っています。

セット商品としては、下記のようなものが出回っています。

私は、自分でかき集めた救急品目ですが、下記のようなものを透明なビニール・ケースに入れています。すぐに必要なものを出せるためです。
バンドエイド各種、マキロン消毒液、止血用細紐(ザイル、他の目的でも使用可)、スポーツテープ(伸縮する幅50mm×長さ4mの粘着テープ、商品名:ニトリート、下記写真)、手拭い。


これは関節を安定保護したり、固定したりするときに便利なので、ぜひ1本携行しましょう。

ザイルは登山用のみならず、普段の家庭生活やアウトドア活動にも有効なので、太さ4.5mmのものを手元に置くと非常に便利です。

なお、この細さのザイルはアクセサリーコードであり、「身体確保用のクライミングロープ」あるいは「 墜落を止める目的 」として使用できません。

5. まとめ

登山初心者向けの初めての雪山の楽しみ方、いかがでしたか?

低山の日帰りコースの案内でした。
いつも申し上げますが、山歩きは他のスポーツや観光と違って、死と隣り合わせのスポーツです。
しかし、山歩きの掟を守れば、これほど安価に自然を楽しめる楽しみはありません。
だから私は、60年も山歩きを楽しんできています。

山歩きには「念には念を入れ」という考えが大事です。
「まっ、いいか!」は禁物です。

初心者のあなたも、やがて振返ってみれば何十年も山歩きを楽しむようになってくれることを期待しています。