小説『風の盆恋歌』

NEWPORT通信

富山県八尾町を舞台に毎年9月に行われる“風の盆”という行事では、独特の音色を出す胡弓という弦楽器を中心とした民謡・越中おわら節を、人々はのびやかに歌い、歌に合わせて緩やかな振りをつけて踊る。この小説はここを舞台にした、いってみれば大人?の第1級の不倫物語といえる。
*******************************************
『NEWPORT通信』へようこそ!
『NEWPORT通信』は、各号(#)が独立した内容なので、どの号(#)からお読みになってもお楽しみいただけますが、まず最初に、
#1 背景と総目次
をお読みいただくことをお勧めいたします。
『NEWPORT通信』の誕生のいきさつと、全号の見出し一覧がご覧いただけます。
*******************************************

Goodyear Japan の三枝正樹君に紹介されて高橋治著「風の盆恋歌」(新潮文庫)を読んだのは、一昨年だったと思う。

スポンサーリンク

越中おわら節

「おわら風の盆」は、富山県富山市八尾地区で、毎年9月1日から3日にかけて行われている富山県を代表する年中行事である。

越中おわら節の哀切感に満ちた旋律にのって、坂が多い町の道筋で無言の踊り手たちが洗練された踊りを披露する。

艶やかで優雅な「女踊り」、勇壮な「男踊り」、哀調のある音色を奏でる胡弓の調べなどが来訪者を魅了する。おわら風の盆が行なわれる3日間、合計25万人前後の見物客が八尾を訪れ、町はたいへんな賑わいをみせる。

町流しは、地方(じかた)の演奏とともに各町の踊り手たちがおわらを踊りながら町内を練り歩くものである。この町流しが、古来からのおわらの姿を伝えるものとされている。

公式スケジュールでは23時までとされているが、見物客の多くが引き上げてからも明け方まで、地方と踊り手たちが休憩を挟みながらおわらを続けている。

じつはこの小説というか作者に、私は、現代風にいえばハマッてしまっている。昨年末は、この作品が劇化され、ヒロインが佐久間良子という点は納得しがたかったけれど、直近の女人を誘って観劇を無理強いしてしまった。同名の歌を石川さゆりが歌っていると聞いて、レンタルCDを借りて録ってしまったりもした。

スポンサーリンク

作者・高橋治の魅力

今年に入って、同じ作者の「ひと恋歳時記」(角川文庫)なるものを書店で見つけ、ヒョイと買ってしまった。初恋、逢びき、愛人、恋慕、密会、邪恋、春愁、陶酔、性愛、および娼婦等、24のテ-マについてのエッセイ集である。

これがただのエッセイ集ではなくて、これらのテ-マにまつわる俳句約240句も収められている。各句の解題はしていなくて、文中にその流れに沿って挿入されている。エッセイ、句ともになかなか含蓄があり、人の心と心がどのように触れ合い、揺れて、そして傷つくかというようなことが改めてわかる。

同時に著者のような、人としての器量の大きな、また上品な洞察力に優れた人に、著作を通してではあるが、巡り会うことができて、とてもうれしく思っている。

その本の余韻も冷めやらぬうちに、こんどは同じ作者の「星の衣」(講談社文庫)という700 ペ-ジを越す大作を読んでみることにした。

最愛の夫に先立たれた女と、恋人に振られた女が、それぞれ沖縄の伝統織物(首里織と八重山上布)に生涯をかけていく、まさに感動ものの長編小説である(吉川英治文学賞受賞作)。女の一途な健気さが、品のある人間関係のなかできれいに描かれている。

人と人との出会いとか、年長者と若年者のからみ、それに親しい間柄でも相手への気づかいの節度や情熱とか、読んでいながら自分の未熟さをずいぶんと反省させられる一冊であった。通勤途上しか読めないが、本日は建国記念日で午後は雪。残り三分の一を一気に読んでしまった。

高橋治の作品を読み続けていたせいか、e-mailが余計にむなしく思えたのかもしれません。当社では3月から個人別e-mailが設定される予定です。今は、マネジメントのアドレスを使って、海外通信用にe-mailを使っています。

著者・高橋治の紹介(1929-2015)

1929(昭和4)年、千葉市生まれ。東京大学文学部卒業。

1953(昭和28)年松竹に助監督として入社、映画監督、脚本家として作品を発表。同期に篠田正浩、また同年代に山田洋次や大島渚がいた。同年、新人助監督として、小津安二郎監督の代表作「東京物語」に係わる。

1965(昭和40)年、松竹退社後作家活動に入る。

1983(昭和58)年、『秘伝』で直木賞受賞。

1988(昭和63)年、自身の小説『名もなき道を』とともに、『別れてのちの恋歌』で第1回柴田錬三郎賞を受賞。

1996(平成8)年、『星の衣』で吉川英治文学賞受賞。

他に『派兵』、ここで紹介した『風の盆恋歌』、『蕪村春秋』、『小説坂東妻三郎』、『旬の菜滋養記』、『泥鰌と粋筋』、そして『青魚下魚安魚讃歌』など著書多数。

編集後記

ここに紹介した『風の盆恋歌』をはじめ、彼の佐生品群には大人の男女の機微が艶やかにあふれている。また、食べ物に関しても、誰にもふっと手が出るようなものに、深甚なる造詣を注入して語られているので、1冊を読むと次から次への手が出てしまう。

あなたの書棚にもぜひ1冊はおいていただきたいと思います。

2021年のいまから30年前には、ビジネス用のe-mailでは、個人用のアドレスようやく導入されつつあったのですね。会社用の電話は、その、もう少し前までは代表番号があって、その下に個人の内線番号がありました。

今のように、いきなり会社の個人のデスクに電話が掛けられるようなったのは、もう少し後になってからでした。

スポンサーリンク