外資系企業の悲劇

昭和の青年

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広告マンに必要なものは

私はかつて、アメリカの広告代理店 (の日本支社、現在は日本法人)に勤務していたことがある。 外資系ということに加えて、 広告代理店という華やかさを二つも備えていることもあって、 外部の人、とくに若い人からは羨望の目でみられることが多かった。

その会社で、 人事部長の仕事をした事がある。自画自賛だがPR部課長からの日本人トップに認められての2階級特進であった。そういう前例はなかった。

広告業界にあこがれる学生のための講演会が東京・新宿の紀ノ国屋書店で開催された。その時、講演に立った私は、講演の初めにまず一発、次のようにかましてやった。

「外資系広告代理店の社員というと、英会話が達者に違いない、と思うでしょう。もちろんそれは大事なことですが、外資系故にもっと大事なことは、英会話能力を外した時に競合企業である電通や博報堂の社員の資質以上のものがあるか否かなのです」

「得てして外資系企業には、英会話能力を買われて採用された社員が多いです。しかし、大事なことは英会話能力を外した時の資質なのです。入社時に英会話ができなくても、資質のある社員は、必要が出てくればがむしゃらに勉強して、通じる英会話能力は身につくものなのです」

「広告マンにとって、いちばん必要なのは何でしょうか? 」

では、
「広告マンにとって、いちばん必要なのは何でしょうか? 」
ここで聴衆2、3人に聞いてみる。答えがいくつか出る。

「いや違います。いちばん大事なのはフットワークなのです。客とのトラブル、リクエストなどにつき、よく電話で、やり取 しているのを聞きます。トラブルが発生したら電話で能書きを話しても進展はありません。すぐすっ飛んで行って謝罪するなり、要件を良く聞いて善後策をたてるなどをしなくてはなりません。 こっちが悪くなくても謝るのは代理店の仕事なのです」

「2番に大事なのは何でしょう?」

では、
「2番に大事なのは何でしょう?」
また聞く。 いくつか答えがでる。
「違います。 2番目に大事なのはハートです。 広告作りがたまらなく好きだ、という一途な熱き情熱です」

広告屋稼業は、辛く厳しい。 士農工商代理店と業界人は自嘲している。そういう辛い環境の中でも身を立てようとするからには、やはり煮えたぎるような熱い情熱は欠かせない。

「3番目は?」

では、「3番目は?」
同様に聞く。 いくつか答えがです。
「違います。知性と教養です」

訳の解らぬクライアント(が、得てして多い)と上手くやりあうには、相応のインテリジェンスと教養がなければ、相手を納得させる事は難しい。相手をなるほどと頷かせるには、会話の端々に知性が欲しい。 新卒者にこれを望むのは難しいが、そうなれるように自己研鑽に励んで教しい。

広告代理店の新人社員が、腕立て伏せ100回をクライアントの前でして、珍しがられたり根性を変われるのは、せいぜい1ヵ月だ。

要するに、身体の下から、足、ハート、そして最後に知性・教養と言う順で大事と言う事である。反対ではない。

ま、だいたいこのような事を話して、それでもやりたいというなら是非、広告業界の入社試験にチャレンジしてください、と話を結んだ。

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外資系企業の問題点

広告代理店に限らず、外資系企業は一般的にその華やかさの陰に、いろいろな問題を抱えている。

経営ビジョンの短期性

そのうちのひとつは、経営ビジョンの短期性である。

日本は現在、多くの商品販売分野において、その市場規模は世界的にアメリカに次いで第2位である。広告代理店のみならず、いろいろな業界の国際企業では、日本でも成功をおさめるべく、その責任者(社長)として、 他の国で実績を挙げた優秀な人材を送り込んでくる。

その本人は日本への転勤を誇りに思い、来日前に例えば「日本でのビジネスの進め方」とか「箸の使い方」とか、まあ、それはいろいろな本でいろいろなことをよく 勉強してくる。本稿執筆当時はネット検索はまだできなかった。「根回し」とか「稟議書」など、日本特有のビジネス慣行も勉強してくる。

しかし、聞くと見るとでは大違い、の例えの通り、いざ、日本での仕事が始まってみると、なかなか上手くいかない。

彼らのファースト・プライオリティ(最優先事項)は何か?

それは読者がその立場になったことを考えてみればわかる。3~4年の任期中に利益を上げ、本社に認められ、さらにステップ・アップ(昇格)することだ。難しいといわれる日本で成功したなら、あわよくば本社へ戻って副社長の席ぐらいは欲しい。

いつまでも、言葉も習慣も違う異国の地で、女房子供にまで不自由な思いをさせてまで日本にいたくはないのだ。しかしいっぽう、ほんとうに日本が好きで日本人を妻にし、日本での永住を決めている外国人もいる。しかし、それは例外中の例外といえる。

そうした彼らがらとらざるを得ない方法は、いってみれば「一発速攻法」である。 日本企業の多くは、少なくとも5年や6年先を見定めて、今年はまずこれをやり、次にはあれをやり、5年後 あるいは10年後には・・・、と目標設定する。 社長が交代しても、前任者の経営方針を80%以上は踏襲する。

初年度から期待される利益、先行投資感は希薄

しかし彼らには、そんな時間はない。 着任初年度から利益を上げなくてはならない。先行投資の概念は希薄である。自分の時代に投資して、実った実が後任者の手に落ちるのは、彼にとっては理不良という訳 だ。

したがって、着任後半年もして、だんだん日本での仕事の様子が解ってくると、前任社長の方法では満足できず、それをほとんど全て否定した上で、 いろいろなことを始める。一発で効果が出る速攻法である。前任地での成功と自信があるものだから、商習慣や国民性が違っても何とかなると思う。

英語堪能者の起用

まず、人事異動をする。 新任の彼に取り入ろうと甘言を囁く英語の解る日本人たちを側近に据える。 そういう日本人は、えてして日本人に人気薄だ。 この組み合わせが彼の任期中、ずっと続くか、途中でその日本人の馬脚を見つけて放り出すかは彼の資質による。もちろん、最初から「なるほど」と思われる人材で 「組閣」 する外国人社長もいる。

英語が上手な日本人を側近にしようとする場合、ある新任社長は私に、
「彼は良い家庭環境で育ってきたか?」
「彼の日本語は正調の日本語か?」
「彼には教養があるのか?」
「彼は日本人に人望があるか?」
と、聞いてきた。

これはまさに正しい人選の基準だろう。

日本の終身雇用性とか、職制のとらえ方ができないので、一般社員が係長の上司になったり、同格職制でも年齢や、先任、後任などの関係なく、自分に都合の良い人材を登用していく。これは、日本人社員を大いにデスカ レッジさせる(やる気をなくさせる)。 きのうまで 「君」と呼んでいた部下が、突然自分の上司になることもある。

自分の動かしやすい組織に変更

人事異動の次は、組織変更をする。 従来の組織を自分の動かしやすいように変える。 日本の企業の中では、 一般社員、係長、課長、部長、取締役、そして社長といったような、終身雇用制を前提とした、出世階段がある。

外国人の考えでは、 この出世コンセプトは稀薄で、営業から人事、総務、経理に至るまでのすべての長を鵜飼の鵜のようにして、自分は鵜匠のように振舞うのである。

そして、全てに自分が具体的に関わってくる。 船長が機関室に入ってスパナを握ったり、厨房へ入って包丁をふるったり、通信室に入って電鍵を叩くのと一緒だ。船がどっちに進んでいるか、乗組員(日本人社員)の方が心配になってくる。

作法に欠ける外資系企業社員

これに加えて、社員の作法の問題がある。 上司や年長者を立てる日本的な「組織の美学」は外資系企には稀薄だ。
会議室や宴席では、顧客、上司や年長者の順着席するのが日本式だ。また、席位置は、日本的には上座、下座(入口の近く)があり、勝手に着席することは許されない。主催者が用意した席順表に従うのが常識だ。
経験的には国内外の外国人が主催する会議には、席に関するこのような日本的「美学」は感じられない。クライアント側と広告代理店側の別はあるが、あとはどこへ座ろうと誰も頓着しない。

名刺の交換も、外国人のやり方はカード・ゲームそのもののようである。こちらが名刺交換で先方に自分の名刺を渡した時に、先方は「あっ、そう」的に、その名刺をワイシャツのポケットに突っ込んでおしまい。
会議前になって、会議室の大テーブルの向こうから、当方へ向けて名刺をテーブルの表面を滑らせるようにスーッと投げてよこすんだな。

冬場のコートについても、外国人勢は無頓着だ。
日本人としては、家庭を訪問するときには、玄関の呼び鈴を押し、ドアが開く前にコートは脱ぐのが礼儀とされる。お暇するときにも、玄関を出てからコートを羽織るのが常識である。冬場、それは寒いので、送り出す家庭の人は、
「どうぞコートをお召しになってください」
とお勧めするのが相手に対する例である。

企業訪問の折は、受付けで案内を乞うまではコートを着用していてもよろしかろうが、そこから歩き出して会議室などへ向かう時には、すでにコートを脱いでいることが相手への例である。

ところが、外国人にはそういう礼とが美学はないから、寒いからと言ってコートを着たまま会議に臨んでいることも珍しくはない。

特異な例だが、東京は八芳園の和式の部屋に、靴を脱ぐのを嫌う外国人クライアントのために、歩行部分にアクリル板を敷いたことがあった。しかし、クライアントはアクリル板のない畳の上まで革靴で歩き回ったことがあった。

これは外国人の一般論ではなく、その外国人に教養がなかったためだと思う。

外資系企業に新卒で入社した社員は、日本的な作法を学んだり、教育されたりする機会がないので、外国人のやり方を「かっこいい!」と当たり前に受けて育つ。日本の一流企業にいたら、 ビジネス作法は先輩からミッチリ鍛えられるのに、そういう機会がないので、自分で積極的に日本の作法を勉強すべきだろう。

外資系企業への新卒の女子学生は、そういうことを自分で勉強しなければ 3年も経てば、とんでもないクサイ女に仕上がってしまうに違いない。

作法は行動美学

何故、作法にこだわるかといったら、 これはひとつの行動の美学だからだ。 一人で生活をしているのではないから、周囲の人に迷惑をかけてはいけない。 不快な思いをさせてはいけないのだ。

福利厚生についても、 外資系企業は日本の企業 (別に一流企業ではなくて、 20人、30人の中小企業ですら) に大きく立ち後れているとみている。 よくある海の家、 山の家にしても、こ れを建設する。あるいは出来合いの物件を購入する。それには相応の投資を余儀なくされる。 日本の企業では、 これ以後何十年かにわたる企業の投資と見る(つまり経営の継続性がある) が、 外資系企業の社長はそうは思っても、そんな投資をするくらいなら、利益に計上して自分の成績にしたほうがまし (経営の短期性)という考えをとりがちである。

社員旅行などでも、 私は日本の企業が羨ましいと、ずっと思ってきている。 私はかれこれ20年ほど、いわゆる外資系企業に務めているが、 会社の負担で(全額でも一部でも) 社員旅行をした覚えはまったくない。 自分達で全額積立でよく行ったものだ。 ちなみにいま在籍している会社で、 先日ゴルフコンペがあり、 外国人社長、副社長以下、主要管理職と一般社員総勢15~16 人参加したが、宿泊費、プレイ費、および交通費も全額参加者負担であった。 私にしてみれば驚くに値しないが、外部の人が聞いたら「えっ!!」と思うに違いない。

まとめ

一見華やかに見える外資系企業。 しかしそこに働いている社員にしてみれば、人にいえないような問題がたくさんある。こうした外資系企業で働くには、 人事異動などの価値観の急変に対応できる心の余裕と、 ビジネス上の自信、 さらには自らを日本人として厳しく自己鍛錬できる資が必要であろう。

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