第8話 学校危機とマニュアルの実地訓練

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日本でも、いくつかの事件をきっかけにスクール・クライシス(学校の危機)への取り組みが開始された。しかし、日本はマニュアル制作に重点がおかれているのに対して、米国では対応「訓練」に重点がおかれる。しかも、専門の訓練会社がこれを行う。

◆ 学校もテロの標的、安全な場所ではない

物騒な世の中になったものだ。スーパーでの現金強盗、一般家庭での殺人、子ども同士の殺人。外国人の国内流入、教育システムの脆弱性に起因する戦後世代の教育指導性の欠如、価値観の多様化と呼ばれる無価値感。

何が原因か特定は難しいが、暴力をもって自分の目的を遂行するテロが社会中に充満してきた。これが学校の中にまで蔓延(はびこ)ってきたのだから、「世間知らず」といわれる先生でも、世間と関わらざるを得ない。

日本では、平成11年12月に京都府立日野小学校で校庭で遊んでいた学童ひとりが21歳の男に刺殺された。同13年6月には、大阪教育大学付属池田小学校で、校舎に入ってきた40歳の男に8人の学童が刺殺された。

今年9月には、ロシア南部のバスランという街で武装テロリストが学童・父母など千2百人が集会しているところへ乱入して、全員を人質にした。のみならず救出に当たった警察と銃撃戦となり、3百人以上が死亡した。

上記の日本の場合は、犯人は個人的な動機であるが、ロシアの場合は政治的目的達成のためのテロであった。動機はともかく、テロの標的として学童を狙うのは卑劣極まりない。

学校も「安全ではない」場所になったのだ。しかし米国では、早くからこのようなスクール・クライシスに取り組んできており、対応に「一日の長」が見られる。銃の国ならではの背景もある。

◆ 危機管理のマニュアル制作だけで安全か

上記の「事件」を機会に文部科学省の旗振りもあり、各自治体で学校危機用のマニュアル制作が盛んだ。兵庫県、長崎県、岡山県、愛知県、山口県、熊本県、群馬県、横浜市、佐賀市、江津市、鳴門市など、どのマニュアルもよくできている。

英文のヤフーでも、「スクール・クライシス(英語綴り)」で検索すると、いろいろな情報が拾える。その中には、企業危機や学校危機専門の企業がある。その内容をよく読んで見ると、トレーニング(訓練)という言葉が多い。

危機管理のマニュアル制作だけではダメで、それにのっとって実地訓練をせよ、ということだ。企業の危機管理でも、私は、同じことをあちこちで書き、話している。

営業のセミナーでも、私は必ず、受講者にペアを組んでもらって、客と営業マンの実戦をさせる。話を聞いただけでは、お客さんの前でスラスラと営業トークができることはない。練習が大事なのだ。

企業トップには記者会見も必ず実施させる。話だけでは、いざというときに「絶対」と
いっていいほど役立たない。ビルの非常階段を教えてもらっても、事前に実際に降りてみないと、いざ火災などの災害のときにいきなりスイスイとは降りられないのと同じだ。

兵庫県の教育委員会がまとめた「学校危機管理ガイドライン」のなかにいいことが書いてあるので紹介しよう。

「危機に瀕すると、組織は普段実践していることしかできない(それもできない場合が多い)。また、普段、実践していないことはできない。従って危機管理を特別な活動としてではなく、日常的な組織活動の過程として取り込む必要がある」

ここにまさに私が言わんとしていることが書かれている。実際のように事件を想定し、警察と協力して、実際に電話をし、実際に学童を誘導し、実際に仮想犯人とやり取りすることが、「きわめて」大事である。

マニュアルに書かれていないことが危機だという見方もあるが、立派なマニュアルがある自治体で学校の危機が発生し、上手く対応できなかったら何のためのマニュアルか、ということになる。

危機管理、厳密には危機予防、危機防止には、1にも2にも、実際の訓練が大事である。

◆ きょうのまとめ

1 マニュアルは、制作しただけでは「絶対に」役に立たない。実際の場面を想定して、声を出し、身体を動かして、実際に「訓練」して身体で覚えることが必要なのだ。

2 消防士が、毎日訓練しているのは、そのためである。

◆ 参考書

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