第3話 PR専門家の資質

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◆「新聞、とってません」「・・・!?」

最近、PRの仕事をしたいという若い2人の女性が、私のところへ来た。まさに、PRスペシャリスト(専門家)になる資質は備えていそうな、初めて会った時の印象が良い2人で、私は「これは使える!」と久々に思った。

ところが、あれこれ話しているうちに、2人とも、
「新聞は、とっていません」
というのだ。
ひとりは独身でひとり暮らし、もうひとりはミセスで1児の母である。私はどう対応して良いか、あいた口がふさがらず、二の句が継げなかった。

今の若年層は新聞なんかはラテ面くらいしか、価値がないのかもしれない。しかし、新聞はニュース記事はともかく、コラムや解説欄はPRスペシャリストには、企画、発想、提案、クライアント・ケアなどに必須だと思う。毎日、新聞を全部読めとは言わないが、すべてのページの見出しくらいに目を通すことで、世界や日本のいろいろな出来事や流れがわかる。

企業や商品のPRをしていこうとする人間が、新聞なしの生活をしていて、どのような意見や企画をクライアントに提案できるのだろうか。本人は「良い企画」と思っても、知性も教養もあるクライアントにしてみれば、新聞も読んでいない人間の企画書には浅薄感は捨てきれまい。

新聞は情報の宝庫であるとよく言われる。とくに文化欄などは、欠かせない。情報の蓄積無き者の企画発想力はタカが知れていると思うし、第一、お客さまに失礼だと思う。ニュースは、テレビだけでも十分であろう。昨今ではニュースはスマホを通してインターネットから読めるが、これは自分が興味があるものだけで、世の中を総合的には理解できない。

外資系の広告代理店のPR部にいた頃、新聞や雑誌はむさぼるように、毎朝、毎週、毎月読んだ。朝、毎、読、日経、サンケイはもちろん、日刊工業、日本工業、日経産業、プラス、1日遅れくらいに郵便で届く全国のブロック紙にも目を通した。

ブロック紙というのは、北海道新聞、河北新報、新潟日報、中日新聞、そして西日本新聞など、いくつかの都道府県で購読されている新聞のことである。これに対して主に1府県だけで購読されている新聞を県紙などと呼んでいる。

週刊誌、月刊誌も、女性誌を含めて、ほとんどすべての前頁をめくった。今でも電車の中吊りで興味が惹かれれば、書店で、女性誌でも目を通す。女性誌などを立ち読みすると傍目には「いけない」おじさんに見えるかもしれないが、そんな他人の目は私には関わりのないことだ。

また、外資系だけに、英字紙も欠かせない。Japan Timesはとくに重要。いまはDaily Yomiuriのほうが発行部数は多いらしいが、在日外国人の多くはJapan Timesを購読している。

彼らは情報の多くをJapan Timesから得ており、Japan Timesカルチャーのような状況下で生活しているのだ。ニュース記事はともかく、そこでの日本文化関連記事などを読んでおくことは、彼らとの会話で役に立つときが多い。

アメリカの企業の広報部長をしていたときは、Nikkei Weeklyが必須メディアであった。そこには日経本紙の1週間分の主要記事が英文で(当たり前!)出ている。同紙が創刊された時は、発案者に感謝したいほどだった。

なぜなら、外国人の社長が直属上司だったので、日本語の新聞に出ている必要情報は常に、英文にして報告するのが常だった。翻訳を外注していては間に合わない。Nikkei Weeklyが大いに役立った。

その頃、外国メディアの記事をインターネットで検索・プリントできることを書店の立ち読みで知った。15年くらい前(1998年)だから、目からウロコの手法であった。アメリカの主要メディア、たとえばNewYork TimesやWashington Post、Wall Street Journal、あるいはNews WeekやTime、USA Todayの記事が検索できるのだ。

ある時、これらのメディアにアクセスして、米国・本社の会長の名前を入力したら、その会長が米国のあちこちで講演したりしている記事が、いくつも取れるのだ。本社からの英文ニュースレリースにも出ていない内容である。

この英文記事を集めて印刷し社長に見せた。それは、かなり重要と思われる内容だった。社長は、それこそ目を白黒させて(外国人だから白青っていうのかなぁ?)ビックリしたものである。全世界のほかの現地法人の社長も入手できない情報なので、彼は喜び、私の株も上がった。

昨今のように、インターネットによる情報収集がいかに簡単になったとはいえ、新聞はPRスペシャリストにとって、依然としてきわめて大切であるといえる。とくに、自分が興味がない記事は重要である。音楽、文学、演劇、建築・・・、ひと通り目を通しておく、それはPRスペシャリストには必須だ。

男性も女性も、太る余裕があるなら、どうか食費を詰めてでも新聞を購読し、よく活用して知的に太って欲しい。あなたの10年後、20年に大いに役立つこと「間違いナイッ」(これは2004年当時流行った言葉だ)。

◆ 庶民的なミーハー感覚と野次馬根性が必要
「人並み」感覚をもち、「人並み」以上の黒子たれ

フリー・パブリシティを担当するPRスペシャリストにまず求められるのは「バランス感覚」だろう。担当している企業や商品を客観的に位置づけできる能力が必要だ。クライアントは、その業界にどっぷり浸かっているから、この感覚はマヒしている。

つまり、その業界、その企業ではごく当たり前のことで、何のとりえもないと思われている習慣や認識が、外部から見ると非常に「新鮮」であり、「ユニーク」で広報的には「売り」になることが、ままある。

それを特長づけ、競合社や競合製品との「差別化」を仕組んでプレスに働きかけるのがPRスペシャリストの役割であろう。

いま、日本では異常な「ヨン様ブーム」である。この日本人の集団ヒステリーは国際的な笑いものだろう。しかも、知恵の足りないマスコミが後追い、続報で報じるものだから、マスコミも含めて日本人は海外から失笑をかっている。外国に住む日本人の友人の話だ。

PRスペシャリストとしては、ミーハー・レベルや野次馬根性でヨン様的現象に関心を持つのは、むしろ自然だが、その現象がどういうものかという客観認識は必要である。それが、バランス感覚というものだ。国際的視点も必要だ。

「バランス感覚」を磨くには、多種多様の情報に触れて、ひとつの現象を複眼的に「見抜く」力を養う必要があろう。だから、新聞は必要というのだ。テレビだけでは、脳は活性化されない。脳細胞は放っておけば死に続け、バカになるだけである、という報告もある。

辞書を片手にでも良いから、英字紙も読んで欲しい。同じ記事でも(政治であれ、社会であれ)英字紙は、主語が明確だから、日本語の新聞(時として主語なし)でよくわからない点でも、よくわかる。

PRスペシャリストにつぎに求められるのは人間的な「好感度」である。最初の印象が肝心である。先の2人の女性は、初対面の笑顔がとてもよくて、今でもハッキリ思い出せる。クライアントにもプレスにも好かれる、これはPRスペシャリストには必須条件だ。

上記の内のひとりの女性は営業経験があり、かつて自分の直属の部下の男女に、私費で葉書大の鏡を買い与え、机の上に置かせた。常に鏡を見て、自分の良い顔を研究せよ、というわけだ。この話は以前にどこかで聞いたことがあったが、「なるほど」と思った。

外国のレストランや駅のホームで外国人と目が合う。彼らは必ず微笑みを返す。これは、見知らぬ人に好印象を持ってもらおうと(悪く思われないように)する仕草だと思われる。仏頂面が得意な日本人も見習うべきだろう。

きれいでかわいい女性でも、口臭がある人がいる。歯が腐っているから臭うのだが、本人は嗅覚がマヒしているからわからない。虫歯は、完治させておくべきだ。男女とも、吐息のタバコ臭、夏の汗の臭い、も同様である。

前日の酒の飲みすぎで、翌朝、酒臭いのは言語道断。かつて部下と2人で、午前中にクライアントへ行く事があった。ところがこの野郎、酒臭い。私は、カネを握らせ「サウナへ行って来い!」とタクシーから蹴飛ばし出してやった。彼、仕事はできるんだけどね。

あと必要な資質は、他の専門家と大差はない。いまではインターネットを駆使した情報収集力、分析力、企画力は不可欠といえる。そして強調したいのがスピードだ。モタモタしていては仕事にならない。

海外の英語のウェブサイトも是非、読めるようになる必要がある。今では、昔、海外出張して集めたくらいの情報収集は、インターネットで朝飯前となった。米国のホワイトハウスやCIAの公開情報も自由に閲覧できる時代だ。

自分の資質向上と、業務の質的向上のためにも、インターネットの検索にも十分習熟して欲しい。

他にもいろいろ申し上げたいが、資質的には、まず庶民的なミーハー感覚と野次馬根性が必要だ。その視点から見た事象を、自分の好みとは別な客観的な視点から抽象化し、企業や商品のエッジ立てをし、差別化戦略を確立し、それをプレスに働きかける。

自らは決して表に出ず、クライアントと商品を目立たせ、「黒子」に徹すること。そのような知的戦略家要素が、PRスペシャリストには必要だと思う。

あなたがPRスペシャリストとしての向上心を持ち始めたとき、あなたは少なくとも一歩、PRスペシャリストに近づいたのだ。「間違いナイッ」(笑)

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◆ きょうのまとめ

1 情報はPRスペシャリストの命。新聞は必ず目を通そう。

2 企画の発想は、自分中心ではなくて、ターゲットの趣向に適合したものにしよう。

3 英語メディアから、日本や日本人を客観的に見よう。

4 情報収集のスーパー手段、インターネット検索(和英とも)に習熟しよう。

5 何事にも「スピード」が、肝心。「モタモタしてちゃぁ、ネタが腐るぜ」

6 「バランス感覚」を磨き、訴求ポイントのエッジ立てに習熟しよう。

7 誰にも好かれる「好感度」を身につけよう。口臭等、生理的不快要素を取り除こう。

8 庶民的ミーハー感覚、野次馬根性が必要。また、これらをアウフヘーベン(止揚)して、クライアントに企画提案やアドバイスできる力を身につけよう。

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