コロナ禍でおうち巣ごもりが続くと、妙な閉塞感に囚われ明るい将来展望が見えませんね。
そんな時は、大自然の中で汗を流すと、自分の血液がマイナスイオンですっかり洗浄されたようになり、明日からの活力がモリモリ湧きでます。
本稿では、都心から近い神奈川県の大山への登山をご紹介します。
大山は2017年に日本遺産に認定されました。また、2020年には阿夫利神社からの眺望がミシュランに2つ星として紹介されました。
大山に祭られている阿夫利(あふり)神社は2000年以上の由緒ある神社で、江戸時代には大山参り講が盛んにおこなわれました。
この大山に頂上までの往復(あるいは周回)コースは、ケーブルカーで途中まで行けるので、まだ山へ登ったことがない人でも行ける登山初心者コースです。そして、山女子、ヤマ・ガール、あるいは山屋としてデビューしましょう。
山歩き60年の経験から、先日(2021年2月11日)登りなおしてきた経験を語ります。
【ご案内】スマホで閲覧の場合、本稿中のすべての写真と画像はピンチアウト(2本の指で拡大)できます。
【contents】
1. 大山の位置
東京・新宿から小田急線の急行とバス合わせて90分でケーブルカーの乗り口まで気軽にアプローチできます。
東京の西端にある高尾山とともにハイキングの目的地として人気を2分しています。
新宿から大山の登山口駅となる小田急線伊勢原駅まで、便利なのは「快速急行」小田原行(56分)か「急行」小田原行(62分)です。急行券不要で、運賃は大人600円です。
大山のケーブルカーの始発電車は09:00ですので、遅くとも8:30までには伊勢原駅に到着できる電車に乗りましょう。
伊勢原駅では北口(進行方向右)に出ます。
階段を降りた右にコンビニがあるので、必要なら弁当や菓子類を買うといいでしょう。
乗り場は、そこから20メートルの「4番」で「伊10系統 大山ケーブル」行です。バス時刻表は、日中は毎時5、25、45分です。終点までは約30分、大人運賃は320円です。
バスの運賃は、均一料金ではなく、距離比例ですので、現金払いの人は乗車時に番号札を引き抜きます。降車時に、電子掲示板に表示される番号札対応の料金を支払います。
交通系ICカードの人は、乗車時、降車時に所定の機械にタッチするだけです。バスは中乗り、前降りです。
バス終点からケーブルカー乗車口まではずっと階段で約15分。両脇に土産店や豆腐飲食店、コマ実演製造店などがあるので、それらに気を取られているうちにケーブルカーの駅につきます。発車時刻は、毎時、00、20、40です。片道640円で約6分で上の阿夫利神社駅に到着です。
祝休日に登山客が多い時には臨時便が出ます。
2. 江戸時代から信仰の山
大山(おおやま)は、関東平野の西の端にピラミッド型に雄大にそびえる単独峰(1,252m)です。別名を阿夫利(あふり)山または雨降山ともいいます。同山の東側にある私の出身校中学校や高校の校歌にはこの山が詠み込まれています。
同山には、大山阿夫利神社が祀られていますが、今から2,200年以上も前に創建されたと伝えられています。 古くから地元相模国はもとより関東総鎮護の霊山として崇敬を集めてきています。1,252mの山頂からは、祭祀に使われたと思われる縄文土器が出土しており、当山の歴史の古さを物語っています。
古くから山岳信仰の山で、江戸時代には大山講が盛んになり、大山への参詣者が急増しました。バス停からケーブルカーの乗り口までの間には、そのような講の名前入り寄進石柱がずらりと並び、往時の盛況を偲ぶことができます。
こうした関東各所の講(同じ信仰を持つ人たちのグループ)の参詣者が通った道を大山道といい、関東、甲州などから大山へつながる複数の街道のことです。主要なものは8道あるとされています。
小田急線伊勢原駅の「大山ケーブル」行バス停の前にある、第一の鳥居。
3. 豆腐料理と大山独楽(こま)
大山の昔からの名物といえば「豆腐料理」と「大山独楽(こま)」を挙げることができます。
「豆腐料理」は、各地の大山講の参拝者が寄進した大豆と、大山の清水で作られたのが始まりです。バス停からケーブルカーの麓の駅まで続くこま道の両側には、今でも豆腐料理を出す店や宿坊が何件もあります。
独楽(こま)は、大山の木地師により製作されたもので、金回りが良くなるという縁起物の土産です。木地師(きじし)とは、ロクロを用いて椀や盆等の木工品を加工、製造する職人のことです。写真は、こま参道に面して作業場を公開している独楽(こま)製造現場。
4. 山の上からは関東一円、富士山遠望
大山はピラミッド型の単独峰なので、基本的に360度の展望が可能です。しかし、頂上には樹木や茶店などがあり、そういうわけにはいきませんが、北、東の関東平野一円、および南の相模湾方面は素晴らしいです。
北とか東方面は、八王子や東京の練馬、杉並方面、空気が澄んでいると筑波山も見えます。東は地元の相模原市や厚木市はもとより、新宿副都心の高層ビル街、スカイツリー、やや南へ行って横浜ランドマークタワー、そこから湘南地域、江の島、鎌倉、右の方へ小田原、真鶴半島と、いくら見ても飽きません。
厳冬期には、初心者には難しいですが、頂上では樹氷なども見られます。
上2枚の写真の眺望がミシュランガイドで2つ星認定を受けました。
5. お勧めコースはこれ!
大山はピラミッド型の単独峰なので、本稿で紹介するケーブルカーの利用コース、西のヤビツ峠からのコース、東の日向薬師からのコースが一般的です。北の方から登る「通」向きのコースもあります。
【ケーブルカー利用コース】
もっとも人気のあるコースです。このケーブルカーは昭和40年完成ですから、私が地元高校の生徒のころはまだありませんでした。
ケーブルカー利用コースには2つの選択ができます。
1)往復ケーブルカーを使うコース
(地図上赤線コース)
上の地図のバス停を降りた地点(F)⇒ケーブルカー乗り場(A)⇒ケーブルカー⇒ケーブルカー終点(B)⇒徒歩⇒頂上(C)⇒徒歩⇒見晴らし台(E)⇒徒歩⇒(B)地点⇒(A)地点⇒徒歩⇒バス停(F)。
2)登りだけケーブルカーを使うコース
(黄色線コース)
上の地図のうち、下山はケーブルカーを使わず黄色い山道を、自然を鑑賞しながら下るコースです。途中、大山寺という由緒ある寺院があるので、掲示板の説明を見て往時を偲ぶといいでしょう。
3)登りの目安
バス停からは案内板に従って、ケーブルカー乗り口へ向かいます。
ケーブルカーは9:00-17:00の運行です。
下から上まで約6分かけて垂直高280mを上がります。
ケーブルカーを降りるといきなり、以下の看板のお出迎えです。
そんなに頻繁に出るわけではないです。地元民の私たちもあまり聞いたことはないです。しかし、忠告は忠告としてまじめに受けましょう。クマは基本的に人には近寄らないです。人声やラジオ、クマよけ鈴などがあれば大丈夫です。
シカはよく出ます。狂暴ではありませんが、こちらから暴挙に出ることは控えましょう。
ケーブルカーを降りてすぐに阿夫利神社下社への登り階段になります。
ほどなく、下社につきます。写真の上の方に見える鳥居が、下の鳥居です。
無事登山、その他の祈願をしたら、いよいよ登りです。
この大山登山は、初心者向けの登り片道わずか90分で、標高差574mですが、ケーブルカーを降りてから阿夫利神社下社を通り、登りはじめの113段の急階段までずっと階段なので、初めての人は「戦意?」を喪失しそうになります。
私が昨年案内した40代はじめの男性は、113段の急階段を登りきったところで顔面蒼白で戦線離脱を意思表示。しかし、置いていくわけにはいかず、阿夫利神社下社の境内の休憩テーブルに戻り、早めの昼飯を食って下山しました(もちろんケーブルカーで)。こっちは古希をとっくに過ぎているが何でもないというのに。
登っていくうちに「ここは〇〇丁目」とかいう小さな石碑に赤く塗られた目印が出てきます。
どこにも説明がないので「なんのこっちゃ?」と誰でも思います。
これは登り口から頂上までの距離を示していて、頂上が「二十八丁目」となります。
「一丁」は尺貫法の長さの基準で「一町」のことです。一町は360尺、つまり109メートルとなります。江戸時代の大山講参拝者の便宜のための道標の名残です。
つまり、頂上まで二十八丁目ということは、3,052メートルという距離になります。標高差574メートルを3,052メートルかけて登るということです。平地の3,052メートルを歩くには1時間もかかりませんが坂道なので90分かかる、ということです。
途中、樹齢500~600年の「夫婦杉」、とか「天狗の鼻岩」とか、あるいは休憩所などもあります。
登りばかりでヒイヒイしていると二十丁目は富士見台となっていて、富士山が正面に見え、これまでに疲れが飛ぶようです。
ここを過ぎれば、頂上も間近です。
頂上は、晴れていても風があるときには、風をよけた陽だまりに場所を見つけ昼飯にしてください。登ってきて身体が温かくても、気温は低いのですぐ寒くなります。頂上についたらまず、風よけの場所を探すこと、すぐに、何かを羽織って体温低下を防ぐこと、これ、大事です。
4)下りの注意点
頂上からの下りは、東方面に伸びる「見晴台・日向薬師」方面の道をたどります。もう少し北に北尾根を下る道がありますが、間違えないようにしましょう。
下りも急なところがあり、登りで脚がかなり疲れているので、慎重に、慎重に下りましょう。
登りルートは南斜面にあるので、霜や雪の影響はあまりありませんが、下り道になると冬では残雪があり、それが解けてグチャグチャになっていたり、日陰では凍っている所もあるので、足を取られないようにしましょう。
「見晴台」まで、下り50分で到着します。ここからは、相模原や八王子、厚木の景色を眼下に収めることができます。ケーブルカーの駅までは、ほぼ平らな道で、下りで疲れた筋肉には優しい道となります。
20分歩くと、午前中に歩き始めた阿夫利神社下社へ登る階段に出会います。
ケーブルカーで下山したい人は、その階段を登り切り、突き当りを右へ曲がるとケーブルカーの駅です。終車は17:00です。
階段を登りきったところには茶店があるので、一服するのもいいでしょう。
まだ余力がある人は、その階段を上らずに道なりに下っていきます。約40分でバス停につきますが、途中、大山寺という古刹があるので、立ち寄っていかれるといいでしょう。
6. 注意事項
凍結トイレ
冬は、山のトイレは凍結して使えません。登山口にその注意書きが出ています。いまはトイレはバイオ式なので、凍ったら使用不可能なのです。昔は良かったね。
ということは、出発地の阿夫利神社下社の端の方にある公衆トイレしか使えなくて、この神社を出て、再びここへ帰るまでの約4時間、トイレはない、ということです。注意しましょう。
【余談】山では、自然界に向けて放尿することを、女性の場合は「花摘みに行く」といいます。男性は「キジを撃ちに行く」といいます。女性が「お花摘みに行ってきます」といったら「俺も行く行く!」なんて言うのは野暮もいいとこ。わきまえましょう。
冗談はともかく、女性がそうしたいときには、遠慮せずに場所を探して、そうしたらいいでしょう。滑落には十分気を付けてください。二人でいって一人は立ち番をしたらいいでしょう。山屋では当たり前のことです。
私も日本アルプスで、尻を出して座ったことがあります(笑)。
軽アイゼン
冬は低山でも西北面の山道は積雪が残っていたり、それが日中溶けて夜凍り、アイスバーン(氷でツルツルになっていること)になっていることは良くあります。
そんな時は、写真のような四つ爪の軽アイゼンがあると、歩行は全然ラクです。必需品と思って、ザックに放り込んでおくといいでしょう。
懐中電灯
夏山の軽登山はともかく、秋冬ではたとえ日帰り、たとえハイキング程度と思っても、懐中電灯は必ず持参してください。秋冬では日没が速く、日没とともに気温はどんどん低下し、装備不十分だと遭難の恐れが十分あります。
とくに、知らない初めての山道では、日暮れてからの歩行は極めて危険です。そういう時は、だいたいが下りです。階段も都市生活の階段のように規則正しい段差ではないし、岩場などは転落でもしたら完璧に遭難です。
私も60年の山歩きで、懐中電灯を忘れたことで、というより明るいうちに下山できると思っていたので、持っていかなかったため、ひどい目にあったことが2回ありました。2回とも人を案内していました。
懐中電灯は、日帰りでも必ず携行しましょう。
スマホの懐中電灯機能を利用する、ということもできます。ただ、持続可能時間がどのくらいあるのか事前に確認しておきましょう。
軽装はダメ
大山や高尾山のように、気軽に日帰り山歩きができるコースでは、街着のような格好で行く人がいます。
今回の大山登山では、本当にびっくりしたことが2つありました。
【ビックリ、その1】
頂上付近で、若い男女が下ってきました。驚いたことに二人とも街着のまま。しかも女性は薄手のプリーツ加工のスカートです。今流行りのように、その下にスボンでも履いているのかな、と見ましたが、スカートの下は生足(なまあし)でした。
これがなぜいけないかというと、岩場の上り下りにはスカートが邪魔で、岩や木の根などに絡みます。山ですから突風で吹き上げられれば下着パンツ丸見えです。下着はともかく、スカートが絡まり転倒すれば顔や頭に裂傷を負うのは明々白々です。
また、その日は天候に恵まれましたが、都会が曇りという天気予報の時には、山では霧や雨、風は当たり前です。スカート姿で濡れたら体温を奪われ、判断力が低下し、恐怖感が湧き、事故につながるのは当然です。山を甘く見てはいけません。
【ビックリ、その2】
今回、私が大山の山頂で昼飯を摂っていた時、驚いたことにひとりの若い外国人男性が、なんとビーチ・サンダル状の履物で登ってきました。素足です。怪我をしない方がおかしいです。
同じ参道を下るなら南斜面なので、路面は乾燥していますが、私のように他の山道を下るとなると、雪解けや霜解けでグチャグチャな道を下ることになります。
危険がいっぱいで、何をかいわんや、です。
7.まとめ
大山は、昔は(いまも少しは)山岳信仰の山として、東京や近県の建築業などの人びとが講を組んで、定期的に参拝に登ってきました。
今では、小田急線も開通し(昭和2年、新宿ー小田原間)、昭和40年にはケーブルカーも開通したので、都心からはアクセスしやすい観光地となりました。
ケーブルカーの上の駅(阿夫利神社下社)までは、街着のままでも十分OKです。そこからはミシュラン2つ星を獲得した関東一円の眺望を楽しめます。
そこから頂上へ向かう山道は、街着やスニーカーで登れないことはありません。しかし、岩や木の根が張る登山道ですから、それなりの靴、雨具、飲料水、非常食などは必携です。
何事も、楽しさを味わうには、相応の約束事があります。以上、ご案内してきたことを確認しつつ、楽しい日帰り山歩きをお楽しみください。