「ひとりキャンプ」に人気が出ています。
それはそれで結構なことですが、山屋の私としては、「山小屋でのひとりキャンプ」をお勧めしたいです。
平地での「ひとりキャンプ」には、まずクルマが必要でしょうね。山屋から見ると、折りたたみ椅子とかとか折りたたみテーブルとか、「大道具」が多すぎます。
これを山小屋でするとなると、すべてを自分で担ぎ上げなければならないので、最小限の必要道具に厳選していくことになります。炊事道具、食材、水、その他山歩きに必要なものを全部込み込みにしても総重量は12、13kg くらいです。
「山小屋でのひとりキャンプ」が平地の「ひとりキャンプ」よりはるかに素晴らしいと思うのは、次の理由です。
1)夜空の、本当に「降るような」星がマッコト素晴らしい。
2)平地の夜景が見られるような山小屋であれば、普段は見られないような極上モンの夜景を楽しめる。
3)仮にひとりで夕食の自炊を始めても、同好の山屋(山歩きの好きな人のこと)や山女子がいるので、担ぎ上げた酒などで話が盛り上がる。
ま、いずれにしても、山小屋での自炊と飲食は、平地では味わえない野性味あふれる野外活動を味わえることができます。
ただ一つの欠点は、焚火ができないことかな。
最近では、手軽に焚火を楽しむこんなアイテムもありますが。
詳細情報
山中では火の扱いには十分注意しましょう。
以下に、山屋60年の経験から、その楽しみ方の基本の基をご案内します。
【contents】
1. 何を持っていくか?
何をもっていくか?
それは、美味しい食べ物、それを作る調理器具(コンロと鍋)、楽しいお酒、そしていつも話すように遭難予防グッズですね。
1-1. 料理器具
調理器具は、登山用コンロ、コンロのガスボンベ、鍋、割り箸、五徳ナイフがあれば十分です。
食べるときの取り分けの登山カップとか、キャンプ用紙皿があるといいでしょう。
また、使用後の鍋類の汚れは、水がなくて洗えないので、持参したトイレットペーパーでふき取ります。そのゴミは、持ち帰ります。
登山用コンロには、2,000円以下の製品もあるので、最初はそのクラスの製品でもいいですが、普通、山屋さんは、だいたい5,000~7,000円くらいのものを使ってます。
下の写真は、私が現在使っている登山用コンロです。後ろの銀紙状のものは、家庭用のてんぷらガードです。山では風があるので、防風用に使っています。小さくたたんでザックに詰めます。
コンロの下の青いのは、コンロを安定させるための敷物です。
鍋は、2種類持っていますが、その時の山行内容により、どちらかを持っていきます。
大きい方(下写真)は登山用です。ラーメンは3人前までOKです。蓋はフライパンとして使います。
何十年も使っているので、ボコボコですが、実用的にはぜんぜん問題はありません。
手前の品は、スプーンとフォークで軽量化のためにアルミ製です。折りたたんで約半分の長さになります。
もう一つの方は一般家庭用の鍋です。鍋の柄などは、ねじ回しで外れるのでかさ張りません。使い勝手も登山用よりいいです。値段も登山用よりぜんぜん安いです。黄色いものは、自分で用意して持ち歩いている分解・組み立て用のドライバーです。
五徳ナイフは、何十年も前に誕生祝に若い女性友達にいただいたものです(写真下、茶色いもの)。フォークとスプーン、ナイフ、缶切り、栓抜きがついています。スプーンやフォークがもっと大きい五徳ナイフもありますし、ナイフ+フォーク+スプーン+箸がセットになったものもあります。もちろん、自宅で使っているものでも、いっこうにかまいません。
緑色のものは、生卵用のケースです。青いのは非常用の笛です。厳冬期でも笛が唇に凍り付かないようにプラスチック製です。声が出なくても笛は鳴らせます。赤いものは、摩擦音で小鳥の鳴き声を発する、ま、玩具ですね。小鳥が答えてくれます。
あと、紙の皿が割と便利です。100均ショップで売っています。調理途中の食材を一時置いたり、食器に使ったりします。使用後、土に埋めると3ヵ月で自然に戻るそうです。
1-2. 雨具・防寒具
山の天気は変わりやすく、夏でも気温は、荒天となると急に下がります。そんな時に、雨に濡れ、風に吹かれると体温は急に下がり、判断力が低下し、恐怖感が出てきて、遭難につながります。
低い夏山でも、ビニールの合羽は必須です。できればビバーク(緊急時の野営)に耐えられるものを「常時」携行しましょう。
以下は私が使っているものです。
こういう製品もあります。
1-3. 地図とコンパス
地図とコンパスは、山歩きには必需品です。
地図は、書店で買ってください。
山行中は常時、自分の位置を地図上で確認する必要があります。その時にコンパスを使いますが、だいたい山屋さんは、このようなものを使っています。
コンパスがなくても、太陽が出ていれば腕時計で「南」を知ることができます。
1-4. 着替え
これは非常用のものです。
夏場は汗はかきますが、たくさんかいたときには下着を替えます。春秋は、汗で着衣が濡れないように衣類を脱いだりします。また、吸湿性の優れた新素材の肌着が出ているので、そういうものを買っておきましょう。
基本的に山では、衣類に滲みた汗は、体温で乾かします。荷物は1グラムでも軽くするようにしましょう。したがって、1泊では、着替えません。男の山屋の場合です。
1-5. 撮影機材
下界の夜景がきれいな山小屋へ行くわけですから、当然、写真は撮りたいですね。もちろんスマホで十分です。ただ、スマホでもカメラでも、長時間露光の撮影をする場合は、三脚が必要です。重いのは避けて、足が10センチくらいの小さいのがあるので、それが便利です。
1-6. 通信機材
これは、遭難した時の連絡用です。スマホで十分ですが、スマホの電波が届かないところがあります。また、バッテリー切れには十分注意しましょう。公衆電話がある山小屋もあります。
登山者カードは、入山前に投函してくるのは基本の基です。
1-7. ザック
ザック選びのポイントは二つです。
1)まず、ザックには洋服と同じようにXS、S、M、そしてLのサイズがあります。これは、自分の首の後ろの骨が出っ張ったところから腰骨までの長さに合わせるもので、この長さを「背面長」といいます。これが正しいサイズでないと、ザックの重量が身体にうまく分散されず、疲れやすいです。
お店のスタッフにアドバイスをいただくといいでしょう。
2)次のポイントは容量です。つまり、ザックの中にどれだけのものが入るかということでリットル(L)で表します。
日帰り登山から、1泊小屋泊まりなら20-30Lでいいと思います。
よく知られているブランド(銘柄)をご紹介します。
ドイター(deuter)
ドイツ南部のアウグスブルクにあるメーカーです。登山家を交えて開発された製品は、現場の声を反映して作られているため信頼性があります。ブランド名はドイツ語なので英語式には読めません。私はこのブランドを使っています。詳細画像はこちら
モンベル(mont-bell)
日本のアウトドア総合メーカーです。十分な機能を持ちつつ、コストパフォーマンスにも優れているため不動の人気を誇っています。mont-bellはフランス語なので語尾の子音tは発音しません。詳細画像はこちら
ミレー(Millet)
ミレーはフランスの鞄店からスタートし、その後バックパックへと進化。さらに山岳向けの製品を開発。製品は 多くの山岳家の指示を得ています。Milletもフランス語のため語尾の子音tは発音しません。詳細画像はこちら
ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)
街用から登山用まで幅広い製品を扱っています。サンフランシスコ発のアウトドアメーカーの代表格です。おしゃれな商品が人気です。詳細画像はこちら
2. 何を作るか?
さて、山小屋泊まりではこの料理が最も楽しいです。山小屋の食事は、だいたいがレトルトのハンバーグとかカレーです。
山小屋の食事時間は決まっていますが、自炊だと夕陽を見ながら何時から始めても構いません。山小屋には自炊室がありますし、自炊室がないところでも、室内に自炊をしていい場所があるので、山小屋のスタッフにお聞きするといいでしょう。
以下には、登山用コンロや調理鍋を使っての料理ですが、初めての山小屋で、そんな道具を買う予算もないという人は、小屋飯(こやめし)を食べて、持参のお酒を持って小屋の外へ出てもいいでしょう。
自炊の人がいたら、道具や方法など聞いたらいいと思います。
私がお勧めできる自炊食事は次のようなものです。
2-1. カツ煮
これは簡単にいうと、かつ丼のご飯の上の部分です。写真はイメージです。
【材料】
ヒレカツまたはロースカツ、タマネギ、シイタケ、ほか好みの野菜、蕎麦つゆ。
【調理法】
ヒレカツでもロースカツでも、出来上がったものをスーパーで買っていきます。
タマネギや椎茸などは、必要なだけ、カットしてラップに包んでいきます。
現場では、フライパンか鍋に蕎麦つゆと水を適合配分で入れ、タマネギとシイタケを入れ過熱します。
5分もしたら、カットしたカツを並べます。銀紙を被せ熱を効率的に使います。
頃合いを見て、溶きほぐした鶏卵1個(2個でもいいですが)の半分ををかけまわします。
卵が固まってきたら残りをかけまわし、半熟程度で火を止めます。
これは、私の好物です。自宅でも作ります。
2-2. チキンのトマト煮
これも私の好きな料理です。
写真のスープをスーパーで売っているので、これを使います。
鶏肉は、必要分を一口大に切ってラップで包んでいき、鍋に入れたスープに入れて加熱するだけです。必要なら、白飯もラップに包んで持参し、一緒に煮たら美味しいです。
面倒くさがり屋さんは、写真右のハンバーグは湯で温めるだけなので、便利です。
2-3. ラーメンと肉キムチうどん
これは、山行料理の代表格です。
包装袋に書いてある通りに作れば、誰でもできます。
【ラーメン】ラーメンは、トッピング類を単品でスーパーで売っているので、お好みのものを持参し、デラックス・ラーメンを作ってください。麺を食べた後に白飯を入れても美味しいです。
【肉キムチうどん】肉キムチうどんは、私の創作レシピです。豚バラでもなんでも、好きな肉を自宅で適当に味付けしてラップに包んでいきます。キムチは白菜キムチがいいです。適量をタッパウェアに入れて持参します。生うどんは、蕎麦つゆか何か好きなつゆで煮ます。出来上がったら、まだ火を止めないで鍋にキムチを入れます。キムチが温かくなったら出来上がりです。
2-4. 生肉などの携行
冬場は心配はないのですが、夏場は生肉などは腐敗するかもしれないので、肉の缶詰などが無難です。
私は、缶ビール2本を冷凍し、これを保冷剤代わりにして肉と一緒に梱包します。
3. 山小屋の予約
山小屋は、厚生労働省管轄の「避難小屋」という位置づけですから、宿泊するのに予約は基本的に不要です。
したがって旅館のようにサービス業ではありませんから、山小屋ではスタッフに物を頼むということは基本的にNGです。
しかし、予約はしていきましょう。予約をしないと、山小屋のスタッフは食事(夕食や朝食)や弁当をどのくらい準備していいかわかりません。自炊で「素泊まり」の場合でも、山小屋としては寝床の手配とかがあるので、必ず電話連絡をしましょう。
山小屋によっては、電話予約必要、というところもあります。
電話する時刻は、山小屋の人が食事作りなどから解放されている12-14時くらいがいいでしょう。
4. まとめ
「ひとりキャンプ」は、自然にまったりと溶け込んで十分リラックスした自分を感じることができます。山小屋での「ひとりキャンプ」では、さらに、喧騒の浮世を離れ、自分で自分に必要なものを担ぎ上げ、星空のもと、眼下に下界の夜景を眺めながら、それはそれは素晴らしい時間を過ごせます。
もちろん、一人ではなくて、素敵なパートナーや気の置けないお友達と行くのも楽しい思い出が作れます。
登山初心者にあっては、最初の山小屋宿泊が忘れられず、生涯の楽しみとして山歩きを愛することができるようになると思います。