第9話 地位の高いPR専門職

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PR担当者は、教養がなくてはいけません。PR技術を発揮する知的背景には、古典文学や絵画、小説、音楽といった芸術一般などへの造詣や感性が重要です。英語ができる人は、自分から英語を取り外したときに、他の人と伍してやっていけるのかどうか、謙虚になることが大事です。

日本での就職の方法は、自分の専門性より、就職する企業の将来性に期待して入社する。企業が優秀と認めた人材は、いろいろな部署の仕事を経験させる。

海外の場合、人はまさに、「職」業を選んで就「職」する。PRのプロを目指すのか、マーケティングのプロを目指すのか、外国人は職種に執着する。PRの専門職は、日本にはあまりないが、外国企業では社内的なステイタスが高く、給与もそれなりに優遇されている。

◆ プロフェッショナルの気概

●外資系大手広告代理店のPR部に属していた頃、その代理店は世界最大のネットワークを持つPR代理店を買収した。日本にもそのPR代理店の支社が東京大手町に10人くらいのささやかな規模で存在していた。

その買収のとき、なるほどと膝を打ったことが起こった。この買収により東京をはじめニューヨークやフランクフルト、ロンドン、パリなどの主要都市では、それぞれの都市に買収した側の広告代理店のPR部と、買収されたPR代理店の支社という具合に、一つの都市に同じコミュニケーション企業グループのPR機能が2つできてしまったのだ。

当然のことながら、このPR機能は1本化するのが効率的だ。世界各都市の広告代理店のPR部の部員は、PR代理店の方へ喜んで移籍した。広告の下請けのようなPR業務ではなく、本来の自立したPR業務を誇りを持ってできるというわけだ。

問題は東京だった。広告代理店のPR部員10数人はPR代理店への移籍を全員が拒んだ。理由は、250人もの大手広告代理店から10人規模の企業への転職は、終身雇用制とか「寄らば大樹の陰」的発想が労働意識の基準となっている日本では、いろいろな点で圧倒的な不利を意味していたからだ。

結局、全員が出向ということで落ち着いた。

●労働環境や職業への認識が違うので、一概に外国的な、職業を選んでその道のプロを目指す就「職」がいいとはいえないが、外国人は大方自分の職種にプロ意識を持っている。

セクレタリー(部内庶務業務担当者)で入社した女性は、セクレタリー意識を明確に持っている。彼女の役割を尋ねると「上司に雑用をさせないことです」と、きわめて明快である。

従って、海外の本社や支社の社員とそれぞれの経歴を談笑するとき、私があちこちの部署をいくつも移っていると話すと、私の専門はいったい何なのだ、といった質問を喚起することになる。

その質問を受けて彼らに、私は無能であるがゆえに部署巡りをさせられているのでは、と思わせないように答えることが大変であった。現在の私はPRの仕事に愛情と誇りを持って専門会社を経営している。

◆ PR業務の地位

●日本で自分がPRの仕事をしているというと、
「ああパブ屋さん?」
と蔑称的な反応をする人がいる。結局彼も、その周辺の仕事にしか携わっていないということになるのだろうが・・・。

私の知人は、何十年ぶりに会った友人にPRの仕事をしていると話したら、
「それは、いい仕事をしているね」
と答えてくれたので、
「ああ、この人はPRを解っている!」と感涙を流したという。

私も感涙を流したことがある。アメリカ企業の日本法人の広報部長をしていた頃のことである。本社の会長が来日した。誰もが緊張していた。社長秘書から、会長が呼んでいるから社長室へ、とのことであった。

通常、本社の会長が来日して呼ばれるのは、日本支社の社長と営業や財務担当の副社長くらいである。私のように取締役でもない部長職が呼ばれることはまずない。

日本では通常、渉外関係(売上達成以外の外部交渉)は、営業担当副社長や、総務部の管掌であるが、米国ではその名のごとくパブリック・リレーションズ担当者の役割である。

本社会長に呼ばれた私は、会長から、プレス・コンタクト、広告・広報をはじめ、官庁関係、仕入先、外注先など(いわゆるパブリック)との金銭以外の関係(リレーションズ)は、どうなっているんだ、と報告を求められた。他の部長たちより、経営者により近いところにいることを実感した。

●ご承知であろうが広義のPRは経営手段のひとつである。経営者が任期中に業績を上げるには、外部にどのような顔をしたらいいか、狭義にはマスコミにどのように報道されるか、どのような広告を露出するか、が大切であり、その役割はPR専門家というわけだ。広告はPRより下位概念になる。

従って、PR担当者はしかるべき見識を備え、バランスのある視点を持っていることが望ましく、海外企業では相応の高給が支払われている。経営者もPR担当者を厳選するし、PR担当者の社内的な地位も高い。

単なる商品パブリシティも大事だが、これだけをもってしてPRと考えていては、私たちPR担当者に将来はないのではないか。経営者の「黒子」であることに誇りをもって、PR業務に邁進していただきたい。

◆ きょうのまとめ

1 社内の配置換えの過程でPR業務をしている人も、幾多の職業経験の後、PR業務に出会った人もいようが、PR業務という素晴らしい業務に速く習熟して「プロ」になって欲しい。

2 気障なようですがPR担当者は、教養がなくてはいけません。PR技術を発揮する知的背景には、古典文学や絵画、小説、音楽といった芸術一般などへの造詣や感性が重要です。

3 英語ができる人は、自分から英語を取り外したときに、他の人と伍してやっていけるのかどうか、謙虚になることが大事です。

◆ 参考書

なお、すでに私は「図解43広報PR 生き残る経営戦略の要諦」【写真下】という電子書籍をアマゾン・ドットコムから発売しています。こちらはPRについてすべて図解のわかりやすいPR入門書・実用書となっております。併せてお読みいただくとPRへのご理解がよりいっそう深まります。

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