第5話 PR機能および職責の地位

PR

◆ PRという用語の多用途的使用法

日本では、PR担当者はしばしば「パブ屋」とか蔑称される。日本ではほとんど単一民族国家と言ってもいいので、「他人によく見られたい」とか「他人への配慮」といったPRの本当の機能や有効性への理解は、遅々として進みにくい。

PRが経営機能のひとつとして、いかに有力な手段なのかを認識して行動をとらないと、PRはいつまでたっても、マーケティングや販売促進の僕(しもべ)の域を脱し得ない。PR担当者としては、まず己の業務への志を高く持ちたい。

知ったかぶりをしているように取られるのも心外なので、簡潔に話したい。PRという用語が、いろいろな意味を含んでさまざまに使われている。また、日本では広告のように一定の明確な概念も普及していない。

以下のような、PRの間違った理解が蔓延している。

1 あいつは自分のPRがうまい。
2 あの会社はPRがうまい。
3 あのイベントはPRが行き届いている。
4 この新製品の、何かうまいPR方法を考えて欲しい。

いずれも一般的にはPRといっているが、中身は違う。

1 は売り込み。
2 は宣伝。
3 は告知。そして
4 は販促だ。

しかも、この4例には、企業PRもマーケティングPRも混在している。

ここでは、
a) PRという言葉は、日本ではいろいろな意味に使われていること、
b) PRは、企業PRとマーケティングPR(製品PR)に大別できること、
c) そしてPRは、パブリック・リレーションズ(Public Relations) の略であること、パブリック(Public) にはいろいろあり、リレーションズ(Relations)は、複数であること、をまず共通認識として確認しておこう。いろいろな方面(複数)へ関係を深めるからだ。

◆ 企業PRは経営手法

いま、クルマのF1レースでは、タイヤはブリヂストンとミシュランの2社提供だが、それ以前の、A・セナや、A・プロスト、そしてN・マンセルの、いわゆる御3家が熾烈なバトルを展開し、M・シューマッハがまだ新星のような存在だった頃、タイヤはグッドイヤーのワンメイク(1社)供給であった。私はそのとき米国グッドイヤー社の日本法人の広報部長兼広告部長であった。

私が入社するまで、日本グッドイヤーには広報部長の職責はなかった。新任の米国人社長がその職責の必要性を十分認識して新設し、私はそこへ呼ばれた。後刻、広告部長も兼任することになった。

職務の報告先は、日本法人の社長と米国本社の広報担当副社長であった。同一の報告書を2人に渡すのだ。いまほど電子メール が発達していなかったので、米国とか海外のグッドイヤーへはファックスを使っていた。

私は新任の挨拶で米国へ呼ばれた。オハイオ州アクロンに本社がある。クリーブランドからプロペラ機で40分も飛べばアクロンという街へ着く。日曜日だったが出迎えが私の名札をかざしていた。

190センチはあろうかという大きな爺さんが、カウボーイ・ハットをかぶり微笑んでくれた。カジュアル・ウエアである。休日だから、ドライバーだけが来てくれたのだろうと思った。

この爺さんが、車中、いろいろと聞いてくる。最初に助手席に乗れといったところで気がつくべきだったのだが、実は、この爺さんが広報担当の副社長だったのだ。私は、姿勢を正し、返事も「イエス・サー」に変えた。

翌朝、ホテルへ若い社員が迎えに来た。副社長の部屋へ通された。それはそれは立派であった。いかにアメリカとはいえでかい。ゲートボールができそうだった。

彼はAP通信の記者であった。長年の経験からメディアの上層部に知人が多い。彼の報告先は、もちろん社長である。社長の部屋や会長の部屋にはシャワールームもあるとの事であった。

彼は、世界各国のグッドイヤーの対外的コミュニケーションの元締めである。ニュースレリースや年次報告書他、外部に出るすべての文書・情報は、彼の責任下において部下が実務を担当する。

グッドイヤーが株主や消費者にどのようなイメージで受け取られるか、あるいは、受け取られるべきかを十分検討する。社長や会長のスピーチ原稿も彼の責任下で作成される。

会長や社長が、あることをスピーチしたり、公表したりするときは、まず彼が呼ばれる。だから、彼の部屋は他のどの役員より会長室と社長室に近い。
「経営判断」は、会長や社長がするが、会社の意志をどのように公表するかは広報担当副社長の重要な職責である。

最近では日本でも、企業危機の状況に備えた役員の記者会見の「実習」が、実戦さながらに行われる「メディア・トレーニング」というセミナーが出てきているが、アメリカではずっと以前から行われてきた。

言ったこともないような説明方法を、マニュアルがあるからといって、いきなり円滑にできるものではない。「実際に」「練習して」初めて、効を奏するものである。使ったこともない非常階段を、いざ火事になったときにうまく使えないのといっしょといえる。

このようにグッドイヤーのみならず、外国の企業ではPR担当者は社内におけるステイタスが高い。グッドイヤーではこのほか、F1レース専門のPR部長もいるし、ヨーロッパの技術センターにも技術専任のPR部長がいる。

彼らはいずれも専任なので、彼らはなぜ私が、分野が違う広告「も」担当しているのか不思議らしい。PRが立派に、ひとつの経営機能をはたしているのだ。

日本の企業PRは、総務部や人事部が「やらされている」ことも多い。IRにしても、PRのPの字も知らない総務部に任せて「良し」としているところが、いかにも広報後進国(発展途上国?)らしい。

◆ きょうのまとめ

1 企業PRは経営の一機能である。企業姿勢を社外へ戦略的に情報発信することである。日本でPRを担当している人は、現状を良しとせず、PRとは何かをインターネットや書籍で、PRの発祥国である米国の企業の実例を勉強し、クライアントに新しい提案をどんどんしよう。

2 製品PRは、マーケティング部や販売部が管掌する販促活動の一環である。企業PRの下位概念といえる。日本では、PRということで、担当者が両方をいっしょに担当させられているが、本来、別物である。

◆ 参考書

なお、すでに私は「図解43広報PR 生き残る経営戦略の要諦」【写真下】という電子書籍をアマゾン・ドットコムから発売しています。こちらはPRについてすべて図解のわかりやすいPR入門書・実用書となっております。併せてお読みいただくとPRへのご理解がよりいっそう深まります。

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