はじめに PRは恋ごころ

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本稿は以下の表題による23回のシリーズ掲載を予定しています。

第1話 日本人のPR的こころ
第2話 PRごころは恋ごころ
第3話 PR専門家の資質
第4話 PR専門家の適性
第5話 PR機能および職責の地位
第6話 外国人のPR感覚
第7話 放置自転車税の公平性と合理性
第8話 学校危機とマニュアルの実地訓練
第9話 地位の高いPR専門職
第10話 日本の後進性、NHKの醜聞
第11話 世界同時発表の注意点
第12話 グッドイヤーのF1広報世界戦略
第13話 韓国企業の広報戦略
第14話 外資系企業の広報の要点
第15話 日本市場を甘く見る外国企業
第16話 「VTRを見る」?の無知
第17話 少子化は動物的野性の劣化
第18話 尼崎脱線大惨事と危機管理
第19話 服飾界の重鎮・石津謙介氏逝去
第20話 エネ庁、広報マニュアルに6900万円!HPに10億円!
余話 1 日の丸が嫌いな日本人
余話 2 当事者意識

◆はじめに

仕事の半分以上を何十年にもわたって、PRという仕事に関わりあうことができたことを大変誇りに思っている。PRは、企業PRと製品PRの2つに分けられるが、特に企業PRという点で国内外の外国企業のトップの方々と知遇を得たことは幸せであった。

本書は2004年当時、PR専門会社を立ち上げ、数人で各企業のPRを担当したり、イベントを企画運営していた松本君(仮名)の依頼により、彼が発行する電子メールマガジン向けに毎月1回掲載させていただいた記事が元原稿となっている。

今回、それを読み返し、20年も経っていて事例そのものは古いものとはいえ、現在の若いPR担当者になお、お役に立てるであろうと推敲し直し、加筆などをしたものである。その電子メールマガジンの当時のシリーズ名は「新津正人の国際広報」と彼が名付けてくれ、ちょっと照れくさい名前だが、そのシリーズ名の下に毎月、テーマを立て解説したものである。

どうしてそういうシリーズ名かというと、本書の中でもご説明しているように、当時の日本では(現在でも相変わらずそうだと思われるが)、PRといえば製品PRが全盛でPR本来の企業PRなどはあまり関心が及んでいなかった、ましてや外資系企業のPRについてはあまり情報が出回っていなかった、そういう環境下で私が外資系の広告代理店にいたPR専門家で、顧客もほとんどが外資系企業という経験を買われて、松本君がそういうシリーズ名にしたのだった(ああ、書き屋としてこんなに長い文章を書いたのは、多分、初めてであろう)。

前述のように、日本ではPRといえば製品PRのことを指す。手法の基本は、新聞や雑誌、テレビやラジオ、そして昨今ならインターネット上に当該製品の情報を無料で露出させることをいう。これをフリー・パブリシティという。フリーはフリー・フロム・チャージ、つまり料金から自由、すなわち無料ということだ。パブリシティはパブリサイズ(広告する、宣伝するという英語動詞)の名詞形になる。

そしてこうしたパブリシティ活動は、販売促進の一環なので企業の販売促進部とか販売部の傘下の仕事となる。テレビや新聞などの媒体を使っての広告活動も同様である。通常、この2つは一組になって行使される。つまり、ある媒体に広告を出すから、その媒体に無料で製品の紹介記事を依頼するといった具合だ。

◆パブリシティの成立要件

しかし実情として、広告はしないけれど無料で記事を書いてくれと、またテレビ番組でもちょこっとだけ無料で製品露出と説明をしてくれ、という依頼がクライアント(顧客)からよくある。

これは顧客にとっては大変虫のいい話だ。しかし、このようなフリー・パブリシティが成立する要件もある。それは、
1 そのネタが媒体にとってニュース・バリューがあるとき(新製品とか)
2 そのネタが読者や視聴者に特典があるとき(何名様無料プレゼントとか)
のときである。

さてでは、このような製品PRと違う企業PRは、日本の企業の場合、どの部署が扱うのであろうか。

企業PRは、経営姿勢というか企業経営の手法の一つなので、製品PRのように販促部や販売部が扱うのは筋違い、というかその部署の担当者にしてみれば専門違いである。

しかしながら日本の多くの企業では、こうした部署が「やらされている」のが実情だ。ところが私は、当時、米国企業の日本法人で広報部長(PR部長)の職にあり、業務の報告先、つまり上司は日本法人の米国人社長と米国本社のPR担当副社長であった。

そういう環境から、企業PRというものを身をもって体験しており、松本君らも羨ましがり、その辺の日本人のPR担当者が経験したことがない、珍しい話をしてくれ、ということで同シリーズの執筆を引き受けた次第である。

本文記事はほとんど実例である。国内外で起こった企業の不祥事や社会的出来事について、PRの視点から解説を加えてある。企業の何気ない不祥事も、PR的観点から見るとこうなる、その不祥事への対応はどうするのか、報道関係への担当者の対応はどうするのか、経営者の対応はどうするのか、そして再発防止策はどのようにすればいいのか。

こうした企業危機に加え、学校への武器所持者の乱入といった学校危機にはどう対応するのか、自治体の不始末にはどうしたらいいのか、そのほか例題満載である。

◆どうして「PRは恋ごころ」

解題として、どうして「PRは恋ごころ」としたかについて。
PRはよく広告とどう違うのかと問われる。専門家でもなかなか答えにくい。私は広告は「バイミー」行為、PRは「ラブミー」行為だと説明している。

つまり広告は「買ってください」という行為であり、PRは「愛してください」という行為というわけだ。何をどう愛するのかというと、企業PRというのは、消費者や金融機関、そして何よりも従業員やその家族に好かれなくてはいけない、つまり彼らの意識の中での「好意」の醸成なのだ。言い返せば好ましい経営環境をつくることと言える。

そのためには、PRというのは、そのような経営の周りにいる人たちに(専門的にはパブリックというのだが)恋をするように接し、当方へ対する「好意」を醸成することなのだ。

なお、すでに私は「図解43広報PR 生き残る経営戦略の要諦」【写真上】という電子書籍をアマゾン・ドットコムから発売しています。こちらはPRについてすべて図解のわかりやすいPR入門書・実用書となっております。併せてお読みいただくとPRへのご理解がよりいっそう深まります。

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