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「どんな本を読むんですか?」というご質問を若い女性からいただいた。
最近読んだ本
本といわず、なんでもたくさん読みます。文庫本だったら気合いを入れて読めば、通勤電車内と自宅そのほかで週1冊ペースで年52冊。しかし、ゴルフだ、映画だ、二日酔い (あれっ、このパソコンには『宿酔い(フツカヨイ)』が登録されていない) などがあるから、 その半分としても25冊、 うん、そんなもんか。 単行本なんかもあるから。
さて、彼女のストライクゾーン(質問) に玉を投げよう。 たとえば、最近買った1冊は 、
『聖ルカ街、六月の雨』 だ。
翻訳者で知られる 常盤新平著。 処女作『遠いアメリカ』で直木賞を受賞している。
「ニューヨークを知り尽くした著者がニューヨークを舞台に描くちょっぴり不思議で洒落た恋愛模様」 とカバーに書いてある。 森林を白人に取られるな、と頑張るどじん (あれ、 土人もない。 差別用語かな?) の話。
久しぶりに東京のアパートから実家へ帰る。いまで両親はドキュメンタリーTV番組の前で、
「OOさんの孫が小学校へ入る」の、
「OOさんの娘が嫁に行く」の、
「公民館が落成した」の、そして
「足が痛いのなんの」、
そんな話をしている。その間に、三分の一ほど読んだ所でやめた。 若花田の取り組みになったからだ。
同書を買う時は、実は『三国志の男たち』 (松本一男著、PHP文庫)を読んでいた。 三分の二ほど読み進んでいる。 これは 『三国志 英雄たちの戦い 』(守屋洋著、 同) および 『三国志の人物』 (同、同)といっしょに買った。 その前は『どといつ万葉集』 (中道風迅著、徳間書店) と『どどいつ入門』 (同、同)。 前々から興味のあった庶民の街歌 (マチウタ)、 庶民の粋、庶民の意地なんていう分野にもっと首をつっこんでみたかった。『江戸の笑い』(加太こうじ著、廣済堂出版) もそ のころ買った。
『極東セレナーデ』 (上、下 小林信彦著、新潮文庫)。 これもミーハー的に面白かった。 アダルト雑誌で編集のバイトをしている20歳の利奈ちゃん。 1Kのおんぼろアパート住まい。 ある日突然舞い込んだ夢のような話。 ニューヨークに住んで、ミュージカルや映画などのショービジ ネスの情報を日本に送るという仕事。 超高給で、 自身もアイドルとして作り上げられてしまう。ニューヨーク、六本木、そして青山を舞台に展開する。 広告、マスコミ、 映画の世界を映し出している。
『ビートルズをつくった男』 (レイ・コールマン著、新潮文庫)。 これはビートルズのマネージ ャーだったホモでユダヤ人のブライアン・エプスタインの伝記ものといっていいだろう。
ビー トルズが活躍した1960年代は私にとっては高校から大学時代に当たる。1964年高卒、69年大卒。学園闘争に明け暮れたとはいえ、ビートルズとマイルス・デビスの、いってみれば両極端なミュージックは、私のハートにギンギンに突き刺さった。それまでの私は、 橋幸夫、西郷輝彦、 舟木一夫、 そして、 まだ若かった島倉千代子姉さんに心酔?していたのだ。
偉大すぎたビートルズの陰に、 こんなにビートルズを愛し続けた彼がいたからこそ、あのグルー プも有り得たのか、という想いを新たにする。 著者が、ビートルズは、もっとブライアンに感謝す べきだ、もっと丁重に接すべきだったという行(ダリ)は、 彼ブライアンの、目に見えないところでの交渉の苦労、尽力を、この本はよく伝えているので、もっともだと思った。 彼にしばしば、きついジョークを 飛ばしたり、 盾突いていたジョン・レノンあたりは、この本をどう読んだのだろう。
『黒豹皆殺し、特命武装検事・黒木約介』 (門田泰明著、光文社文庫)。これはハードボイルドもの。 主人公の秘書がよく書けている。 この手のものは、週末に見るべき映画もなく、ゴルフもないときなどに一気に読める。600円だから安上がり。
この他小説では、昨年暮れから年初にかけて、何となく、原田康子ものにおつき合いした。女流文学賞を受賞した 『挽歌』 をはじめ 『殺人者』 、『満月』、 『風の砦』 ほか数冊を、惹かれるように、 たて続けに読んだ。 私が知らない、何か女性特有の心象風景っぽい状況がたくさんつまっていて、普段は覗けない女性の部屋を見せ てもらったような気がした。
ことしに入っては、大体こんなもんかな、この辺に散らばっているのを見ると。ときどきカミさんが、 邪魔だからと、まとめて私にわからに様なところへしまってしまうので、あるいはもう少しあるかも知れない。 昨年は、司馬遼太郎の韓国ものやモンゴ ルものもかじってみた (あれ、 『かじる』の漢字もない。
こう見てくると、特に読書傾向はない。 知りたいことを知りたいときに読む本と、エンターテイメン ト (娯楽、気晴らし)として読むものに分けられるだろう。
これまでに印象深い本
これまで印象に残っている本としては、フレデリック・フォーサイズの『悪魔の選択』上、下、司馬遼太郎著『竜馬が行く』 (全8巻、 新潮文庫)、 新田次郎『武田信玄』 (全4巻、同)、『通夜の客』井上靖著。
『通夜の客』は主人公の名前が新津というので記憶していたが、その舞台となったのがカミさんの田舎、鳥取県は福栄という所だということを結婚してから義父から聞いて、その奇遇に驚いた。 こちらは、舞台となった地名は忘れていたし、義父は主人公の名前を忘れていた。 お互いに自分に関係のある主人公名と地名だけを覚えていたのだ。 二人で改めてその小説を読み直した次第。 井上は戦時中、大阪毎日新聞の記者だったが、 家族ともども、同地へ疎開していた。
疎開といえば、 横溝正史も岡山あたりに疎開していた。 岡山と米子を結ぶのが、最後までSLの三重連が走っていたJR伯備線で、岡山からは北へ中国山地を登っていく。稜線をこえて米子側に少し 下った所に生山(ショウヤマ)という駅がある。
松本清張も幼児期ここにいたという。 ここから1日3往復しかないバスで20分ほどの所にカミさんの生家がある。
伯備線がまだ岡山県を走っている辺りに井倉洞という鍾乳洞があり、 この鍾乳洞を舞台に書かれたのが『八つ墓村』。 横溝正史は、 昭和21~22年頃に次々と。 例の金田一耕介探偵が活躍するのオドロオドロした探偵小説を発表 した。 昭和52~53年ごろリバイバルになる。
私たち夫婦は昭和50年頃、まだブームになる直前、 彼の作品を読破したといってよい。最寄りの駅前の書店の横溝作品を全部買ってしまった。『本陣殺人事件』、『悪魔が来たりて笛を吹く』、『犬神家の一族』、『女王蜂』、そして『三つ首塔』など。いろいろ思い出深い。愚息・ 正史の名は私の正人にも似ているので、横溝正史から戴いた。
一番のお勧め『源氏物語』
勤めたいのは 『源氏物語』だ。 新潮文庫 (全3巻) の田辺聖子ものがいいだろう。 古今東西の中でも一級の恋愛小説だし、 高校時代に古典の授業でしか触れたことのない人は、この期にぜひ一読 されたい。 同時に、 同じ田辺聖子の『むかし・あけぼの』(上下、角川文庫)『 小説枕草子』 (上下、同) と 『私 の好きな古典の女たち』 (瀬戸内晴海著 、新潮文庫) も勧めたい。
前者は、 枕草子の著者・清少納の随筆を田辺聖子調に愛の長編小説にアレンジしている。 私に娘がいたなら、首ねっこ捕まえてでも読ませてやりたい。 よく以前には、 女の子の誕生日に贈らせて戴いた。 平安朝の長閑(ノドカ)で奥ゆか しい恋愛作法を楽しめる。
日頃読んでる英字雑誌等
英字ものは、レギュラーでは仕事関係で『AUTO SPORT』 と『ADVERTISING AGE』を読んでいる。
前者はイギリスの雑誌で日本の同名の雑誌もこれにちなんでいる(あれ、因(チナ)むも入ってないぞ)。私は同誌を発行する出版社で雑誌『モーターファン』の編集部にいた。
英誌『AUTO SPORT』 は F1、グループC、 ヨーロッパのツーリングカーレースをバランスよくコンパクトにまとめてある。
後者『ADVERTISING AGE』は、 広告の本場アメリカの雑誌。ま、広告担当者には必読書と言える。米国のいろいろな広告 キャンペーンが紹介されている。 広告代理店間の人事異動まで掲載していてなかなか面白い。
私の机の上によく置いてあるので、私によく待たされる諸君は、しばしば目にしているだろう。 英語なんか読めなくっても、クライアントの広告費ランキングなんかを見れば当面のビジネスには役立たなくてもいろいろ勉強になる。彼らは、そこをコピーを取ったりして持ち帰っている。 いい姿勢 だと思う。
『NIKKEI WEEKLY』 も読んでいる。 日本経済新聞の英語版ダイジェストだ。日経は毎日読んでいるので、その英語版をわざわざ読むことはない。しかし、アメリカ人社長などに頼まれて、日経の記事を英語に翻訳しなければならないことがある。そのとき、実に便利なのだ。
この週刊紙のもうひとつの利点は、外国人読者のために、日本人には解りきったようなテーマを掘り下げて特集している点だ。 外国人相手の仕事をしているとこういう記事 はとても役に立つ。
『TOKYO BUSINESS TODAY』 (東洋経済社刊)もそういう点では便利なので、立ち読みでチェックして必要なら買う。
『 ECONOMIST』 も、地味だが、なかなかい記事があるので、これも立 ち読みチェック。
まとめ
【2021.06.06.記】
ここに挙げた書籍は、『NEWPORT通信』を書いていた1990年ころのものである。
しかし、世界で最古、最長の恋愛小説『源氏物語』は、若い女性のみならず、若い男性にもぜひおすすめの書籍です。ここにご紹介している横溝正史の一連のオドロオドロしい小説群も、他の小説類とは一線を画した境地を描いているので、ぜひお読みいただきたいと思います。
昨今ではSNSなどの1~2行の文章を送ったり、受け取ったりする風潮が強く、厚い文庫本とか、ましてや『坂の上の雲』(文庫本8冊)などのシリーズものを読むことには、まったく手が出ない若年層が増えているのは嘆かわしいことだ。
ここに紹介したほかにも藤沢周平の時代物、例えば『用心棒日月抄』とか山本一力の作品、例えば『あかね空』や『落語小説集 芝浜』などもぜひお読みいただきたい。江戸時代の武士や庶民の生活や考え方を知る上で楽しい読み物である。