小説『ワイルド・スワン』中国共産党の恐ろしき実態

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いつもは、文庫本が多い (携帯に便利で安いので)のに、最近は単行本を立て続けに読んだ。

前に 「ジム・クロウ」のときに書いたピリー・ホリディ自伝『奇妙な果実』晶文社刊、油井正一・大橋巨泉訳) は、岡本君(隣の部署のジャズ・フリーク=熱狂者)からいただいたもので、 4月4日読了。 続いて金賢姫 の『いま女として』(文藝春秋刊、上下)、そして、これ『ワイルド・スワン』(ユン・チアン著、 講談社刊 上下)。 

読書の時間がとれずにいたが、連休に入って、息子にも妻にも存在感を失った「お父さん」は、朝、寝床でひっくり返ったまま読み耽った。以上5冊合わせて13cmの高さ。ま、よく読んだものだ。 

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中国の隠された真実を暴く

それにしても『ワイルド・スワン』は素晴らしい。 これは、祖母、母、そして1952年生まれの著者の女性3代の生きざまを通して、現代中国の隠された真実を暴く衝撃的なノンフィクションである。

「人生において、あと何度こんな作品に巡りあえるだろう」

とその「腰巻き」に書いてあるが、まさにそのとおり。パール・バックの『大地』を凌ぐとの評もあったが、私は「越えている」 と思った。 この本は、新津パーティにも1度だけ顔を出した三枝正樹君の紹介である。 彼も博学多彩で、このほかにも高橋治著の『風の盆恋歌』や「知の巨人」といわれる『南方熊楠』の著作などを紹介されて読んだ。

彼は、毎日宿酔い状態なので、いつ読書をしているかは謎であるが、日頃から敬愛すべきところもあるので、 「そうかい」と、二つ返事で内容も聞かずに買うことにしたのだ。

話は、中国の清朝滅亡、中華民国(台湾)の大陸地区内での成立(1912)から、中国共産党の結成(1921)のころから始まる。日本の大正期である。

大部分が著者の母の物語だが、 この本の中でも、 その母が金賢姫の場合と同様、 人間性を顧みない社会体制に理想を求め続けるところに悲劇がある。共産党員として思想的妥協をいっさいせず、清貧にして潔癖に生き、精神的にも肉体的にもボロボロになって死んで行く父。

子供5人を何とか生かせようと必死で奮闘する同じく共産党員の母。 こうした共産党幹部の両親が献身的な活動をした中国共産党の非人間的な政策と行政を見ながら、やがてその社会的矛盾に気づいていく理知的な著者、ユン・チアン。

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誤って世界拡散した文化大革命

本の中に書かれている文化大革命 (=文革)は、私がちょうど学生の頃、 毛沢東の指導で紅衛兵を中心に進められていた。『 大字報』とよばれた壁新聞のことなどが、日本国内ではジャーナリスティックに報じられていた。当時、私たち学生の間では、これは中国内での体制改革が、 若者を中心に進められているとの肯定的認識であった。ところがどっこい、 であった。 

それは当時中国が、国外へ流れる情報をコントロールした結果、 日本以外でもこのような認識をした識者は多かった。6~7年にわたる狂気の文革の最後の頃、この文革を肯定的に受け取る海外論調を著者が中国内での英語の読みのもの中に見つけて、あぜんとする行(クダリ)があった。

文革の実態は、この本に詳しいが、 「造反有理」の下に中国全土を吹き荒れた。いわゆる四 旧(旧思想、旧文化、旧風俗、および旧習慣をいう)を追放するということで、きのうまでの教員・教授を殴る、蹴る、中国四千年の歴史が築き上げた重要な文化財はことごとく破壊するなど、中国全土で愚行の限りを尽くした。これが毛沢東・中国共産党の実態であった。

私はこの本に出会わなかったら、中国の現代史をこれほどのスケールで、かつこれほどの詳しさで知ることはなかったろう。 また、歴史を誤認したまま人生を送ってしまったろう。 日本の学校でも検定済みの歴史教科書を使うより、これを必読書にした方がよほどよい。

今朝、寝床で(下)を読み終えたとき、私はしばらく目を閉じ呆然としていた。 そして、 なぜか25 年ほど前、 映画 「アルジェの戦い」を見終わったときのことを想い出した。 知的に、かつ情報量的に 圧倒され、 情念的に十分感動できうる著作である。 女性にも、ぜひお勧めしたい。

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