赤いネクタイと食中毒

NEWPORT通信

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オリンピックの日本選手団制服

私は贈り物をして、とてもよかったと、目いっぱいハッピーだったことがある。 30歳を少し過ぎた頃だった。その頃私がいた広告代理店のPR部に、 Kちゃんという可愛い娘がいた。 目鼻立ちのととのったきれいな娘で、祖父くらい年の離れた彫刻師かなんかの父親がいた。気っ風は江戸っ子を絵に描いたようなふうで、地方からでてきたおっとりした同世代のバイトの娘には、恐がられるような所もあった。 

社内の独人男性にも絶大なる人気があり、彼らは用もないのにPR部へきて駄弁を費やしていった。

ある時、私にはもう結ぶのも恥ずかしくなった真っ赤なニットのネクタイを、彼女に進呈することになった。 彼女はボーイッシュなファッションも難なく着こなす着こなしのセンスも持っていたからだ。機会があってちょっとそのネクタイの話を彼女にしたら、欲しいと言うことなので、差し上げたのだ。

そしたら次の日。ジャーン! なんとアイボリーのブレザーにあの赤いネクタイ。そのいでたちは1964年のオリンピック入場式での日本人選手団の制服をほうふつとさせた。 これはKちゃんでなきゃ決まらない。

そして、他の人には解らないように、 私にこっそりニコッときたもんだ。 その娘の彼なんか(私の後輩) その辺はかなりトロイもんで、
「おう。 決まってんね」
とかなんとか言ってる。
「ありがとう」
と彼女は軽くいなしながら、はたまた二人だけにわかるウィンク。この複雑な 喜びと精神的な不倫感覚。 

 この時はほんとうに、それを彼女にあげてよかったと思った。 Kちゃんといえば、この話をいつも想い出す。 

愛がこもった?サンドイッチ中毒

ある時その彼に、 Kちゃんはランチ用のサンドイッチを作ってきた。梅雨のころだった。 現場仕事の多い彼は、外でランチを済ます。 夜、仕事現場から自分の席に戻って、サンドイッチを発見。 

「おーい。 誰んだ、これ。 喰っちゃうぞ」 

言い終わらない内にパクつく彼。 社にいた他の私の部下たちは出前で夕食を済ませているので誰も相手にしない。ところが不運なことに、その晩、彼は急な腹痛に襲われて救急車で会社近くの病院に入院と相成った。 食中毒であった。

翌朝、出勤したKちゃん。 彼の入院を知る。 

「えっ、どうしたの?」。

 配慮の足りない奴が言ってしまった。 

「なんか腐ったサンドイッチ食ったらしいよ」

「げっ!」

 Kちゃん、真っ青になって病院 へ。 

「ふだん突っ張りのKちゃんが、あんなに取り乱したの見たことないね」

と地方出身のバイトの娘。

「 ごめんね。 夜食べるなんて思わなかったの。でも、おかしいって解らなかったの?」
「俺さ、腹へっててさ」
「もう、バカ」

と言ったかどうか知らないけど。 そのKちゃんの娘たちにも、サンドイッチを作ってやる彼ができる年頃になった。

 

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