【1999年1月記】【#30から続く】ウィ-ンでは、やはり地下鉄とバスを乗り継いで30分位のところにある「ホイリゲ」なるものへ行ってきました。「ホイリゲ」(ドイツ語: Heuriger)とは、ブドウ園の中にあるワイン居酒屋とでもいえるもので、ぶどう園の中に点在する農家で、今年取れた新しいワインを飲ませるところです。その地域一帯にそのホイリゲが軒を連ねています。
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ワイン酒場「ホイリゲ」
夏とかシ-ズン中に行けばそれなりに雰囲気もあるのでしょうが、私が行ったのは外は凍てつく冬の夜でした。日本のように電飾看板があるわけではなく、実に排他的要素に満ち満ちていたのでありました。日本の寒い冬の夜中に、人っ子一人見かけられない町中で、犬が一声ワォ-と悲しげに一声、月に向かって吠えるじつに萩原朔太郎風の雰囲気なのです。
仕方がないので、これはと思う建物のドアを開けたら中世風の中庭に出る。ウ-ン、真っ暗。一つだけ明かりが漏れている小窓が向こうの方にある。これを意を決して押し開く。
な-んだ、みんないるじゃん。ったく。20人位の中年男性ばかりが顔を赤くして談笑している。で、中に入る。凍りついていた頬が緩まるくらいに暖かい。
と、一人の男が近づいてきて何か言っている。全然わからない。歓迎の意がうかがえない。だいたいこういうときに歓迎の意があれば、言葉がわからなければ、指を1本とか2本とか立てて、人数を聞いてくる。
そうでないということは、これは貸切りパ-ティと言うほかに何が考えられるか。また、マイナス気温の暗闇をほっつき歩くことになった。
次のところは、店構えはまあまあだが、ここにも一見さん歓迎の雰囲気はない。薄暗い中庭に入り、10mくらい奥の微かに明かりがこぼれる大きなドアを押し開く。20畳ほどの部屋。照明はなし。次の部屋から漏れてくる明かりで、古い農機具が展示してあるのがわかる。展示品なのか、使用中のものなのか、暗いのでよくわからない。
奥の明かりが漏れ来る扉を明けたら、ほ-ら、ちゃ-んと、あるじゃん。そこは日本の「村さ来」風のインテリア。古い農家そのままで、こげ茶の柱も梁も太く年季を感じさせる。壁は真っ白でこれは塗り替えたのであろう。アコ-デオンとバイオリンでヨ-デル風の曲を歌っている。
客は、家族あり、仲間あり、何となく場違いなヤングのグル-プありで、千差万別。ほとんど満席状態。当然のことながら受付のような入口近辺の4人テ-ブルを案内された。一人で4人テ-ブルは気が引けるが、ま、しょうがないね。タダで飲食するつもりではないので。やっぱり、首根っ子つかまえても、ひとり日本から相棒を連れてくるべきだったな。
新酒ワインはジョッキで
このときは、腹は比較的満たされていたので、あまり食べられそうもなかった。しかし4人テ-ブルを占領してワイン一杯だけはないだろう、とメニュ-を隅から隅まで全部読んだ。結局は、ソ-セ-ジ関係、ビ-フ関係、ポ-ク関係に落ち着く。あとは料理法と添え物が何か。
女性でも一緒にいれば、ああでもない、こうでもないとかい言いながら、それなりに「選択の迷い」を楽しむことができるのだが。ま、ここはオ-ソドックスにソ-セ-ジとザワ-クラフトで一皿みたいなものをオ-ダ-した。
ワインはジョッキでくる。2合は入っている。清酒でも今年の米で作った酒があるけれど、ここのワインは、やはり今年の葡萄で作ったものという。
「ホイリゲ」とは「今年の」と言うドイツ語の「ホイヤ-」が転訛したものだという。味は、フレッシュというかカリフォルニアワインのように若々しい味がする。でも、ワインはワイン。2合は2合。ついでにもう一杯別のブランドをもらって、うん、これはこれでまたべつのフレイバ-とテイストである。といいつつ結構飲むね。アルコール度数は13、14 度だから、清酒の4合と同量だ。
日本では超極太の部類になるソ-セ-ジ15cm 長x2本にザワ-クラフト(キャベツを発酵させ酢で調理したもの)プラス、マッシュド・ポテト。この一皿が化け物で、私には3食に分けて丁度いいくらいだ。
ザワ-クラフトは日本でも何回もたべている。通常キャベツだけだが、ここのは魚とか何かほかのものが入っていて、あまり美味くない。だいたいどこでも出されたものは、全部食べる私だが、これは残してしまった。
ボ-イもこちらの心中を察してか、下げていいか、というからそうしてもらった。しかしこのまま帰るのも癪だし、ワインはもういいから、そうだビ-ルをもらおう、ということで、ビ-ルを頼んだ。腹一杯でビ-ルもないだろう。しかし、ワイン2杯で喉も乾いたし、ま、いいじゃないか。
結構いい気もちになって、帰りがけにトイレに行った。腹はポンポコリンで、そっと歩いたが、もし背中でもポンと叩かれたら、小か大をチビるか、反吐が出そうであった。
断熱構造の二重窓
欧州建築の窓について触れておきたい。よく、クリスマスのころのヨ-ロッパの住宅で、夜、外からレ-スのカ-テン越しに室内が見える風景があるだろう。
暖かそうな暖炉。クリスマスツリ-の側でサンタさんから贈り物をもらって喜ぶ子供たち。ほほえむ若いお母さん。ちょっと不思議に思わない? なぜ、窓が曇っていないの?
普通、室内が暖かくて、外が寒ければ、窓ガラスが曇るのが理の当然と言うものだ。日本ではアルミサッシのガラス戸が水滴でビッショリになって、拭いた経験がある人もいるだろう。
これは結露と言われている。内外の温度差があればあるほど、結露がひどい。窓ガラスだけではなく押し入れの中まで結露して布団などを湿らせる。
室内で外国語を話せば、結露は起こらない。ということはないが、ヨ-ロッパでは何故、結露が見られないのか。これは、窓が二重になっていて(窓と窓の間は20cm位)、一枚のガラスの内外の温度差が、結露が発生する(空気中の水分の量が飽和状態を越える)ほど、開かないからである。
つまり、外側のガラスに接する外気温と2枚のガラスに挟まれた中空の温度の差、内側のガラスに接する中空の温度と室内温の差が、結露を生じるほど開かないからである。
日本では北海道で、この二重窓が採用されている。今回、ウィ-ンとザルツブルグのホテルでは、古式豊かなこの二重窓であった。ミュンヘンとロ-テンブルグのホテルはペアガラスを採用していた。
これは2枚のガラスを張り合わせてあるもので、2枚の間には5ミリ位の幅があり、窒素ガスとかが封入されていて、これが断熱効果をだしている。ショ-ウインドウのガラスも近寄ってみるとペアガラスになっているのがわかる。日本でも結露で悩んでいるなら、割高だがペアガラスに替えたらいいだろう。
古式豊かなホテルの鍵
ヨーロッパには、日本のように新しいホテルがあまりない。従って、オ-トロックとかカ-ド式キ-とか、最新技術が使われていない。ズルズルの鍵穴にキ-を差し込んで、ガチャガチャ回して開閉する。問題は回転数である。日本では1回転である。これが何と2回転である。鍵は1回転と決まっているのが日本でしょう。最初は焦ってしまったね、まったく。
ドイツの鉄道の優れたシステム
ミュンヘンで、明日、ロマンティック街道にあるロ-テンブルグへ行き、そこで1泊して明後日はフランクフルトへ行き、そこか空路帰国するという日である。
まず、駅構内のインフォメ-ション・センタ-へいった。ここの受け入れ態勢が素晴らしい。10人はいる。全員がパソコンを前に置いている。
この話の前に、ミュンヘン、ロ-テンブルグ、そしてフランクフルトの位置関係を案内しておく。ミュンヘンとフランクフルトは1本のラインで結ばれていて、特急が一日に何本も出ているので問題はない。
ロ-テンブルグへは、この途中のカタカナのトの字のようになっているスタインナッハで途中下車してロ-カル線で往復しなくてはならない。
とりあえず、明日、ロ-テンブルグヘ行きたい旨を駅スタッフにつたえた。ト-マスクックの時刻表では詳細がわからず、不安だったので。日本では係員が時刻表をひっくり返してア-デモナイ、コ-デモナイしてるもんだから後ろの客は苛々することがよくある。
ミュンヘンの係員は、私の問いに1秒で答えて往復葉書状の時刻表(新聞紙と同じ厚さ)を渡してくれた。
これは、ミュンヘンとロ-テンブルグ間の専用時刻表だった。表は往き、裏は帰りである。葉書の縦位置横1行に、発車ホ-ム、発車時刻、列車の種類(国際特急、都市間特急、各駅の別)、行き先、乗り換え駅のスタインナッハの着・発時刻、列車番号、ロ-テンブルグ着時間、運行日(毎日とか土日休とか)、有効期間(来年の5月29日迄の1年間)が印刷されている。
よく見ると、ミュンヘンからロ-テンブルグへ行くにはミュンヘンから、5:34から17:50 まで28本の列車が出ているのだ。この時刻表が、行き先別に約100 駅分くらいが刷りあがって、駅広場の真ん中に置いてある。
感心したのは、ドイツ人のこの合理性と、私の質問を受けた係員が「あちらにあります」とか官僚的なことをいって、彼らが楽をして、聞いた不安客がもっと不安になることがないことであった。
好奇心にかられて駅構内を見回すと、パソコンが置いてある。ドイツ語か英語が選択できる。行き先をマウスでクリックして探すと、何番線で何分に乗って、どこで乗り換えていくら、という具合である。これって日本にないと思う。漢字処理がないからコンピュ-タ-のシステム構築が容易なのだろうか。
国をまたいで走る国際特急に乗った。ザルツブルグ-ミュンヘン間。また、1国内の主要都市を結ぶ都市間特急にも乗った。ミュンヘン-スタインナッハ間。これらの列車には座席にその日の時刻表(A4縦半分サイズ4ペイジ、両面印刷)が置いてある。
これが優れモンで、停車駅ごとに接続列車の発車時刻、番線、行き先、列車番号が、直近時刻のものではなく、その後のものも出ている。聞きにくい車内アナウンスを聞き逃すまいとする緊張感から開放されるのがありがたい。
もっとビックラこいたのは、ミュンヘンのインフォ・センタ-で別の係員に、明後日、ロ-テンブルグからスタインナッハ経由でフランクフルトへ行くのに、どんな列車があるかを聞いた。自分で調べる手立てがなかったし、ホテルでもわからなかったので。
「何時迄にフランクフルトにつけばいいの?」
と、太っているけど人のよさそうな京塚昌子風なお嬢さんが聞き返した。3時半まで、と答えると、ちょっとお待ちください、とかいって、キ-ボ-ドをカタカタと15秒。ドイツ国鉄のレタ-ヘッドを印刷機に差し込んで(自動給紙ではなく手指しであった)、ジ-ッジ-ッと印刷して、
「はい、おわかりになります?」
と渡してくれた。
「おわかりになります?」
どころか、私は目をひん剥いてしまった。
間に合うように3本の案内が出ている。ドイツ語はわからないが、地名は読めるし、時刻を見ればぜ-んぶわかる。ロ-テンブルグ発時刻、列車名、番線、スタインナッハ着時刻、番線、同発時刻、番線、列車番号、行き先、フランクフルト着時刻、番線。
一応、着とか発とか番線に当たる単語を確認したらぜ-んぶ当たりだった。この間3分もかからなかったろう。日本で外国人にこんなに迅速な対応ができる駅があるのだろうか。
改札のない駅
今回の訪問都市はウィ-ン、ザルツブルグ、ミュンヘン、フッセン、ロ-テンブルグ、およびフランクフルトだが、フッセンとロ-テンブルグは、地下鉄も路面電車もないよき田舎町である。ザルツブルグは、路面電車は走っているが、地下鉄はない。ウィ-ンとミュンヘンでは地下鉄や路面電車、郊外電車などに乗った。
ウィ-ンの路面電車に乗るときは、日本のバスのように、乗車時に時刻が打刻された切符状のものを機械箱から受取り、降りるときに一律の料金を払う、とガイドブックには出ている。
しかし、よく見ていると乗車時にも降車時にも、料金を払う人はだれもいない。路面電車が2両連結で来るが乗務員は前の車両の運転手一人だけ。後ろの車両に乗った人は、そのまま後ろの車両から降りてしまう。
定期券でもあるのかと、乗降客を目を凝らして見るが、それらしきものの提示もしていない。私はというと、最初はガイドブックにそう書いてあるものだから、その通りにしたが、誰もそんなことはしていないので、なんとなくチグハグな感は免れない。
次に乗ったときは、後ろの車両で、その時はコインの持ち合わせがなかったので、みんなにしたがって何も払わないで降りた。このときは非常にナチュラルに流れた。確かチュ-リッヒでもそのようだった気がしたが、記憶は定かではない。
いちいちコインを払うのも面倒なので、72時間乗り放題という切符(確か5回分位)を買った。これは非常に便利でお買い得だったが、これも煙草屋で買ったきり、一度も運転手に見せる事なく済んでしまった。
地下鉄と郊外電車も同様である。第一、改札がない。ここから地下鉄構内、という辺りにそれらしきものはある。しかし、鎖も、日本の自動改札機の仕切板のようなものもないので、通過自由である。
そういえば、駅員の数も極端に少ない。切符の自動販売機はある。仕組みは日本の場合と大方同じである。切符を買って、これを握りしめて改札に行っても誰がチェックするわけではなく、車内検札もなく、当着駅の改札も開放的なので、何のために切符を買うのかわからなくなる。
ミュンヘン郊外のBMWの博物館へ行った帰りのことである。午後4時だというのに駅舎はクロ-ズドされ、従って消灯され誰もいない。オリンピック公園の中にある立派な駅なのに、である。
券売機もないので、仕方がないから、切符なしで改札を通過する。車内で車掌から買えるのかもしれない。しかし、それもなくミュンヘンに着いてしまった。こちらの改札もフリ-だから、結局、ただ、である。
ただでも乗れる、と思っている私がさもしいのかもしれない。地元の人は、検札がなかろうが改札がなかろうが、どこかできっと料金を払っているのだろう。乗客と鉄道側に確固たる信頼感が確立されているのかもしれない。逆を返せば、日本では両者の間に信頼感がないから、自動改札機とか検札方式で、乗客の良心を無視して、切符の不所持を検査するのかなぁ。
三軒茶屋と高井戸を結ぶ旧玉電は、2両連結で前の車両に運転手、後ろの車両に車掌がいる。駅は、三軒茶屋と高井戸以外は、確か全部無人駅で改札はない。途中駅の乗降で、料金払いの人は一番前か一番後ろから乗って、乗車時に一律130 円を支払う。
定期券の人はどの乗車口から乗ってもいいらしく、前の車両の後ろ扉か後ろ車両の前扉から乗ろうとする人は、定期券を頭上に掲げて最後尾の扉のところにいる車掌に提示する。
車掌はオペラグラスをもってしても、この定期券の有効期限を紅白歌合戦の野鳥の会のメンバ-の如く、素早く判断することは難しかろう。しかし、ここには乗客側と鉄道側のある種の信頼感があって、これを見ていてほのぼのとするものを感じた。