長野県湯治場にて

NEWPORT通信

 木々の若葉が一斉に芽吹いて、目に眩しい。

 朝日が木の葉の間を柔らかくつき抜けて降りそそぐ小道を、厚手のセ-タ-をかぶって男は歩いていく。5月末の高原の朝はまだ寒い。むせ返るような新緑の息吹の中を、小鳥たちの声が飛び交う。目の届かないずっと下のほうから、谷川のせせらぎが聞こえてくる。

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浴衣の胸

 「散歩」とメモを残して、男は女が起きるまでの間、冬の名残りと新緑の若々しさが入り混じったなだらかな起伏の山道を楽しむことにしたのだ。

 清らかな自然の大気を胸いっぱい満喫しながら、男は昨夜の女の悦楽の表情に思いが至り、おもわずゾクゾクッと身をすくめた。不謹慎かなぁと思ったりもしてみる。

「ね、自然がいっぱいのところへ行きましょう」
「山?」
「山って、荷物しょってでしょう。あなたがいう山っていうのは。ダメよ、それは。あたしはダメ。クルマで行って温泉入って、あまり人がいなくって、そういうところないかしら」 

 クルマで行って、あまり人がいなくて・・・こうした二律背反的な条件を満たせということを事もなげに言ってのけるのは、なにもこの女人に限ったことではない。男は、学生時代に劇団の合宿をした長野県の山奥の湯治場の一軒宿を思い出した。

 昔はそれこそ山の中で、学生でもあり予算もないので、自炊の湯治棟へ米持参で泊まり込み、手も切れるような清水で米をとぎ、山で拾ってきた小枝を薪にしたものだ。今も依然として一軒宿だが、すっかり建て替えられ、ちょっとしたホテルである。

 宿へ戻ると女人は、共同温泉風呂から帰ってきたところだった。浴衣に宿の茶羽織を羽織り、顔が火照りぎみに光っている。

「おはよう」
「うん、おはよう」

 男は、手拭いを干すのに前こごみになっている女人のそばによって、遠慮ない視線をわざと浴衣の胸の合わせ目に刺し入れた。

「あっ、こら」

といって女人は胸をかき合わせた。男の手はさりげなく女の尻を撫で上げる。

「あ、穿いている」
「当たり前でしょ、もう。ね、ジェントルマンでいてくださいな」
「ジェントルマンねぇ、私には似合わないね。でも、かわいいお尻だよ」
「あらそぉう」

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こどものような女人

といって女人は、尻を突き出したり曲げたりして鏡に映していた。いくつになっても子供みたいな可愛さをそのままもっている。

(将来の#Xへ続く)

 

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