日本の「察しの美学」と傲慢

昭和の青年

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Thank you と Please

日経夕刊の1面に 「瞳」という40行位のコラムがある。過日、次のような行(ダリ)が目にとまった。

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ワシントンのバーで、カウンター越しにひとこと 『ビール』と注文したら、 ウェートレスに『あ なた、プリーズくらい言いなさいよ』とたしなめられた。 ものを頼むとき少なくとも『プリーズ』をつけないと、相手を不愉快にさせる粗野で威張り散らした人間に思われる。
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日本人は、圧倒的にこの種の「please」とか「thank you」 を使わない人種だと思う。 知ったかぶった話で誠に恐縮だが、海外を回ってみると、 それがよく解る。

いつであったか作家の森瑶子も、どこかに同じようなことを書いていたのを読んで、同感と思ったことがある。 

つまり、 レストランへいく。 ボーイがメニューを持ってくる。
「thank you」
水を置いていく。
「thank you」。
やがて料理がくる。
「thank you」。
おかわりはいるか、と聞きにくる。
「Oh, yes, thank you, please」。
食後には、 コーヒーか紅茶かを尋ねられる。
「I prefer a cup of coffee, please, thank you」。
食事はどうだったか、と聞きにくる。
「Excellent and thank you very much for your good service」。
レジでも、
「thank you」、
コー トを受け取って、
「thank you」。
まるで「thank you」と「please」の洪水だ。

日本人は、このうちどのくらい「ありがとう」 といえるのだろう。 私はいつも思うのだが、日本人は世界で唯一と言っていい単一民族の国だ (1億人以上もいて、2番目は約60万人の在日韓国人に過ぎない)。 だから、いろいろな傲慢や美徳が育まれてきた。 「thank you」や「please」をあまり言わ なくてもいいような社会構造なのだろう。

 駅や歩道で他人とぶつかっても、お互いにそのまま行ってしまうことが多い。 エレベータや電車はわれ先だ。 道を聞いても 「ありがとう」を言わない人が多い。 つまり傲慢なのだ。 これは土居健夫の『甘えの構造』を持ち出すまでもなく、日本人の甘えの最たるものだと思う。

 外国人は、 このような日常的な相手に対する気遣いは、男性にせよ女性にせよ、見習うべきところをたくさんもっている。 彼らとの会話には、「thank you」と「please」のほかに、こちらの名前もやたらと多い。日本人同士の日本語会話では、その中に相手の名前を入れることなどはほとんどない。

察しの美学と野暮

 いっぽう日本には、外国にないような美徳も生まれた。 「察しの美学」だ。 いわずもがなのことは、 日本人同士なら言葉にしなくても解る。 目を見れば解ることはたくさん ある。 それを言えば野暮と言うことになる。 会話で主語を省略するのはしょっちゅうある。これは、外国人にはなかなか解らない。

外国人の夫婦の間では、言った、言わない、した、しないは重要な価値観になっている。 愛してい るなら、
「I love you.」
といわなければ、そう思っているこちらの心の内は、伝わらないようだ。 出勤前と帰宅時の玄関での口づけも必須事項で、 しなければ、
「ホワイ?」
と迫られる世界なのだ。 

カミさんの誕生日にしても、向こうの亭主族は大変だ。

奥方の誕生日はご亭主には年間最大イベントの感があり、 会社を定刻にキチッと引き揚げる。 朝、通勤途上、 ケーキ店に頼んだケーキを受け取って自宅へアクセル全開、と言う具合。

この話をわたしは、 カルフォルニアはオークランドの自転車倉庫 (日本の体育館の4倍位あっ た)でジェフリーとかいったセールスマネージャーから聞いたとき、
 「ってやんでぃ。ベラボーめ」
と思ったが、ガイジンの男は大変だなぁとしみじみ思った。 

普通日本じゃ、カミさんの誕生日を忘れることはないでしょうが、平日ではどうにもならないので、では、と次の土日に何かすれば、そんなに機嫌を損なうことはないでしょうね。

日本人だけなら、 ならこういう傲慢さ、こういう美徳でも問題はそう出まい。しかし、諸事万端に言えることだが「日本の常識は世界の非常識」 だ。以前に書いたの日経の編集者にしても、米国の酒場で日本感覚で、
「ビー ル」
とオーダーしたのだろう。 

日本なら 「はーい」 とかなんとか明るい返事が返ってくるところだ。 日本の常識が通らなかった。 海外に行って日本人の評判がよくないのは、 世界の常識が解らず、 自分の (日本の) 価値観でことをなそうとするからであろう。誰でも初めから知っているわけではないので、 予め人から聞いたり勉強できるものはそうして、そうじゃない部分は、恥をかいて覚えるしかないかな。

とりあえず「ありがとう」

親しい間柄の女性は、 相手の男性に対してとかく 、
「ありがとう」
を忘れやすい。 男性が海外出張に行く。 気を利かせて土産なんぞを買ってくる。 彼女の笑顔なんかを想像しながら。 

ところが・・・。
(女) 「えー、 これなぁに?」
(男) 「?」
(女)「だって・・」
要するに、 デザインとか色がお気に召さないと言うわけだ。 自分が欲しかったものと違うんだって。
「そんじゃいいよ。 他の娘にやるから」
「他の娘って?」
「うるせーッ!」 

あとは、 お決まりの進行。 なぜ、この話がこうこんがらかるのか。女性は思いがけないお土産がが、 実は嬉しかった。 だったらそこで、すかさず、
「わー、ありがと!!」
とか何とか、嘘でもいいからいっとけ、っつーの。 

そうすれば、あとで自分の好みと違うとな何とかいったとしても、それはなんとでもなる。男性としては、総論として
「ありがと!!」
をもらっちゃってるものだから、多少のことをいわれても、
「あー、そうかい、じゃ次にな」
と、寅さんになれるのだ。

 ところが、この場合、女性の気持ちの全体の15%か20%くらいしか占めない不満の文句を、先に言っちまったもんだから、 男性としては、 自分の好意を全否定されたように聞こえる。 男性がある程度年嵩が行っていれば、
 「しょうがないコだなぁ」
とかなんとか、そのわがままを堪えることもできる。 しかし、 20代や30代では、それは難しい。

贈り物 (お土産) を異性からいただくということは、大変なことなのだ。 贈り主は、 品物選びであれこれ迷って時間を費やす。 ラッピングとリボンでまたひと苦労だ。 手作りものの時はなおさら時間と情熱が込められている。 だから、プレゼントをいただいたときは、物はともかく、 相手の自分に対する思いやりと情熱と、割いてくれた時間に、とりあえず「ありがとう!!」 を素直に言えるひとになろう。

男性は単純で子供みたいなもんだ。煽(おだ)てりゃあ機嫌がいい。 女性に拗ねられりゃ孤独よ。
「 他の娘やるから」
とは言ったものの、 当てなんかあるわけがない。

たまたま、海外に行くことが結構あったので、 「thank you」と「please」は人と人との油みたいなものだということがよく解った。日本にいても、「察しの美学」はあるにしてもできるだけ言うようにしている。

 

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