人生には数奇な巡り合わせというものがある。最近つくづくそう感じる。小学生のころ、丸と線とカギの組合せのハングル文字に出会って、外国文字はロ－マ字しか知らない私には、大変フレッシュな印象を受けた。思い返せば、これが私と韓国との出会いであった。
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歴史の巡り合わせ
その後、日本人と思っていた、実は在日韓国人の大学時代の後輩と、同じサークルにいた日本人女性との悲恋は、すでにこのシリ－ズで紹介した。これが私の韓国という国を認識する糸口であった。そのころ、まさか将来、韓国企業で働くことになろうとは、夢にも思いもつかなかった。
学生のころ国会議事堂周辺のデモで機動隊に規制されて、警棒で殴られたり、機動隊員の登山靴のような乱闘靴で蹴られたりして、雨で濡れたグリ－ンベルトに放り出されたことがある。
そこがちょうど地下鉄千代田線の国会議事堂前駅の近くで、後年に至ってまさかこの駅が通勤の上下車駅になろうとは全く想像だにしなかった、それに似ている。
もっと皮肉なことは、学生時代に、当時、若者特有の超過敏な時代危機意識、政治的危機状況への認識、もっとも最盛期であったベトナム戦争反対等の思想基盤を元に「反米反帝」（簡単にいえば、米国および日本政府与党の帝国・軍国的傾向に反対すること）に燃えていたのに、思い返せば、そのアメリカ帝国主義の「手先」として、20年以上もアメリカ企業で働いてしまった。そういう感覚である。
学生時代はアメリカ製品の象徴的存在であったコカコ－ラなんか飲むな、というような風潮だった。私が後年、広報広告部長の職を得るアメリカのタイヤメーカーGoodyear Japanは、その思想的攻撃のシンボルである米国大使館（アメタイと呼んでいた）の真ん前であった。
ま、そうしたいくつかの数奇な巡り合わせのあと、今の韓国企業の日本法人に草鞋（わらじ）を預けることになったのである。株式会社で日本法人であり、私は取締役で社長の次のポジションであった。
韓国初訪問
韓国へは、以前から行きたいと思っていたが（悦楽目的ではない）、ついぞその機会がなく、この会社に入って初めて行くことになった。これまでに２回出張してきた。
１回目は、ディ－ラ－の引率で本社と工場を線で引いたように回って、自分の思うようになる時間がまるでなかった。両方とも光州（クァンジュ）にあるので、羽田空港ー金浦空港ー光州空港と飛ぶ。２回目は一人の出張、自由時間も土日があったので十分あった。
新しい国を知りたいと思ったら、街を足で歩くこと、食に関係のあるところヘ足を運ぶこと、これらは私の旅行術の一つである。で、私はマレ－シアでも、ロンドンでもニュ－ヨ－クやズ－リックでもしたように、まず、デパ－トの地下の食品売場を訪れた。
ソウルのロッテ・デパ－トは韓国では一流デパ－トなので、それを念頭において「視察」しないと、韓国民はずいぶんハイブロ－な生活をしていると錯覚してしまう。
KL並みの猥雑さと活気
南大門（なんでもん）や東大門（とんでもん）の市場（しじゃん）ヘ行くと、アパレルや靴や屋台が、屋台の調理の臭いが染み込むのではないか、あるいは飛び散るその汁が掛かるのではないか、と思われるほど雑多に隣り合わせて配置されている。人混みもすごく東京のラッシュアワ－のようである。
この猥雑さと活気は、マレーシアのクアラルンプ－ル（KL）のそれを彷彿とさせるが、クアラルンプ－ルのほうは、南のせいか、もう少しおおらかなように記憶している。
香港はもう少しこじんまりしたイメ－ジが残っている。私は、こういうところを所在なく歩いてみるのが好きで、前記２都市でも、ソウルと同様、店から店へ屋台から屋台へと蝶のように（表現に若干の無理がある）渡り歩いて楽しんだ。
ソウルでは、豚の頭の丸焼きや、海鼠（なまこ）やホヤや生で生きて動くイカの足やその他、訳の分からないうまそうなものが大皿盛りされている、裸電球の屋台で、韓国焼酎真露（じんろ）をストレ－トで飲（やっ）ている人たちを羨ましそうに脇目で見ながら生唾を飲み込んだものだ。
むかし京城、いまソウル
日曜日には、ソウルの街を歩くことにした。もちろん一人である。野次馬根性に満ち満ちて、ホテルをでた。ホテルは、東京の原宿の様な狭い繁華街の筋向かいにある。本社に近いので本社の社員が押さえてくれた。ま、２流ホテルだろう。
ソウルは私らが小中学生のころは京城（けいじょう）と呼ばれており、1960年ころからソウルと呼ばれるようになった。
手始めに前夜行った南大門へ。午前中のそこは化粧を落とした水商売の女の顔のようだった。すぐ側のソウル中央駅へ行く。駅前広場には観光客だか、お上りさんだかがたむろしている。この広場を見下ろすように建っているのが大宇自動車の本社ビルだ。
駅舎の中に入る。全国的に節減運動をしているのか、ここも薄暗い。取りつけてある照明器具の半分くらいしか点灯していない。駅舎内には明るさを絞れないのであろう電飾看板が、異様に目立っている。
気がついたのは、上野駅のように十何番線もあるのに、そのホ－ムの入口に改札口があることだった。もちろん自動改札ではない。日本のように、改札口はまとめたほうが人件費の節約になると思うのだが。
駅からなだらかな坂をキョロキョロしながら20分ほど歩くと、ソウル・ヒルトンの前に出る。ソウル市の中心に盛り上がる小山・南山（なむさん）公園の入口に取りつく。南山の字の如く、かつては市街地の南にあったのでそう呼ばれているが、今では南山の南にイ－テウォンなどのショッピング地域が発達したため、南山はソウルの真ん中になってしまったのだという。
ロ－プウェイなどもあるが歩き始めた。日曜の午前中のためか、静かである。喧噪の市街地も朝靄の中に沈んで、車などの騒音はここまでは聞こえない。
階段の途中、何ヵ所かが小公園になっていて、数組の人たちが散策を楽しんでいる。公園の一角に椅子一脚だけを持ち出して床屋がいる（ある？）。客が座っていて営業中だ。多分営業中だろう。道具箱には一通りの物はそろっているからだ。しかし、水がないから、最後はブラシで払って終わりだろう。写生をしている人もいる。
もう百段ほど階段を上ると、そこは東京・青山の絵画館前のような広場だ。階段を上っているとき、ガキッ、とか、バシッとか、何か非日常的な大容量の衝撃音がしていたので、息せき切って昇ってみると、それは軍隊の対人攻撃の訓練であった。６尺の警棒と盾をもって、マンツ－マンで、総勢70人位が上官の号令で均一な動作を繰り返していた。
しかし、後ろのほうでは軍服の上着を脱いだ者たちがキャッチボ－ルをしたりしていて、取り損なったボ－ルが訓練中のところへ転がっていっても、別にお咎めもない。韓国には徴兵制がある。満18歳からが対象者となり、特別な理由がないかぎり満28歳になるまでに入隊しなければならない。 兵役の期間は、陸軍と海兵隊は18か月である。
安重根、伊藤博文の暗殺者、韓国では英雄
さらに二百段ほど昇ると、中央図書館がある小さな広場にでる。この広場の一角にあるのが、「安重根記念館」である。今回の小登山の目的の一つは、ここを訪れることであった。アンジュングンと読む。日本人にはあまり馴染みのない名前だ。しかし韓国人にとっては、大変な英雄で、この記念館もソウル市民の寄付で建てられたという。
しかし彼が1909年、ハルピン駅で当時の日本総督府総裁・伊藤博文を射殺した男だと聞けば、日本人はあるいはその名を思い出すかもしれない。日本の歴史教科書では、たかだか１、２行の記述で軽く流した感があった。しかし韓国では、韓国の独立を踏みにじった日本の象徴としての伊藤博文を暗殺した英雄として、こうして記念碑まで建てて彼の抗日の「偉業」を讃えている。
このように歴史的事実を巡っての教育の違いにより、個人の歴史認識は大きく違ってしまう。その後、私はKorean watcher（韓国の政治・社会・教育状況を報道関係者の目から観察する人）として韓国を見つめてきた。
反日感情は憲法より優先？
しかし、韓国という国は幾多の要因が重なって「反日」ということでは、激高する人間が多いことがわかる。憲法より国民の反日感情の方が優先されるのだ。
また、国際的な法治感覚がまるでない民族なので、私が大学に入学した時1965年に締結された日韓基本条約もまったく理解できていない。したがって慰安婦問題にしても徴用工問題にしても、すべて解決済みの問題に関しても、何回も何回も日本へ謝罪と賠償を執拗に請求してくる。
竹島にしても、歴史的な経緯で日本の領土であることは明らかなのに、突然、不法にも占拠状態が続き、軍隊による実効支配状態となっている。
かつて韓国は、中国、ロシアから侵略される危機にあった。その時、日本が韓国を併合し、植民地扱いどころか、同じ国民として対応し、日本の陸軍士官学校などには多くの韓国人が進学した。大統領だった朴正煕はよく知られている。他にも駐日大使、首相経験者もいる。
丸坊主の土地に植林し、鉄道やバス路線を敷設し、学校教育や公民館制度、その他さまざまな、国としての体制を築き上げたのは日本だった。また、第二次世界大戦の終了に当たっては、韓国における日本の資産をすべて無償で置いてきたのだ。
もし韓国が、日本の統治下にはいらず、中国やロシアに占領されたいたら、両国は日本ほど韓国の建国に貢献しなかったろう。とすれば、韓国は現在の中国農村部やロシアの辺境地並みの生活水準に留まっていただろうことは容易に推測できる。
ノーベル賞受賞者、たった一人
現実的に、韓国人は自分たちで国を造ることはできなかった。日本からの多額の資金援助や技術指導などがあって、今日の韓国があることを彼らは認識できないでいる。
ノーベル賞受賞者も金大中ひとりが平和賞を受賞したに過ぎない。日本では日本国籍者が25人、日本出身外国籍者3人、日本をルーツとする外国籍者2人、併せて30人である。
おおざっぱに韓国の人口は日本の約半分。としたら15人といわなくても10人以上はノーベル賞の受賞者がいてもいいのではないか？
私は小学生のころから韓国に興味を抱き、後には韓国財閥企業の日本法人のナンバーツーにまでなった。言ってみれば「親韓派」といえる。「知韓派」でもある。
韓国は、そういう私を含めた他の「知韓派」日本人を絶望させないで欲しい。
