クラシック音楽と信仰心

NEWPORT通信

 バッハもモ-ツァルトも教会音楽に深く関与している。この度のヨ-ロッパの旅で、事あるごとに感じたのは教会の存在の大きさ、人々の信仰心の厚さである。

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ダンモからクラシックへ

「ジェイ・エス・バッチと書くんだよね」
「あ、そうね。よくご存知ね」

 いわゆるバッハ、誰でも知っているあの音楽家のバッハ(大バッハ)のフルネ-ムがヨハン・セバスチアン・バッハということは、小学生のころ知ったのを今でも覚えている。中学校の音楽室の壁には、バッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツァルト、そしてベートーベンといった古典派音楽家の肖像画が額に入れられて掲げられていた。 

 しかし、そのスペルがJ.S.BACHと知ったのは、クラシック音楽を聞くようになった最近である(1995年頃)。英語式に発音すればジェイ・エス・バッチであるので、そんな会話をクラシック音楽に詳しい若い女性と東京・銀座のスナックでグラス片手に楽しんだのである。

 私がこの通信を書きながら聞いている曲を時々紹介するので、読者のT君がバッハの曲を教えて欲しい、と切手同封で書いてきた(この頃は、まだ、携帯電話もスマホもなかった)。人に紹介するほど聞き込んでいないし、たくさん知らないけれど、自宅のCDラックを見たら、それでも7~8 枚のバッハのCDがある。

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親しみやすいバッハ

 バッハは古典派の中でも古いほうで、曲風が極めてシンプルで馴染みやすい。聞き飽きもない。「G線上のアリア」などは、クラシック音楽に詳しくない人でも曲を聞いたら、ああ、この曲、とすぐにわかる。

 それで、フランス組曲とかイタリア協奏曲などを紹介してやったら、ほどなく便りがあって(のどかな時代でした)、推薦曲は見つけられなかったが、似たような曲を見つけて楽しんでいるとのことであった。彼もいろいろなジャンルの音楽を旅してきて、クラシック音楽にたどり着いたようだ。

 とはいっても、私はクラシック音楽に詳しい訳でも、長年聴いてきた訳でもない。恥ずかしながら音楽についてはほとんど教養がなかった。

 大学生になったころ地方から来ていた友人の下宿に行った。立派なオーディオの装置があった。
「何を聞きたい? サラサとかレゲエ?」
私は、まるで頓珍漢だった。彼はジャズ・リスナーとしてはセミ・プロといえる。卒業以来ニューヨーク在住でいくつかの仕事をし。現在はCPAといってアメリカの公認会計士の仕事をしている。

ダンモへの傾倒

 ニューヨーク郊外の彼の自宅には、なんと4,000枚近いLPレコードが所蔵してある。そういう彼、および他の音楽好きの友人から影響を受けて、モダン・ジャズへと急に傾倒していく。大学近くにあったモダン・ジャズ(ダンモといった)の喫茶店に出入りするようになった。

また、新宿の都電通り(いまは靖国通り)の面していた歌舞伎町の「木馬座」、紀伊国屋の裏にある「ディグ」、新宿西口にあった「ポニー」などに頻繁に出入りした。

マイルス・デイビス、オスカー・ピーターソン、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー等々、私はかなりのめりこんでいった。学生時代は、ほとんどダンモに浸っていたのである。

卒業してからもダンモとの生活が続いた。そんなある時、親子ほども年の違う若い音大卒の女性に、突然、

「モーツアルトのコンサートの切符を2枚買ってしまったので、行きましょう」

と誘われてしまった。有無を言わせぬお誘いであった。
これは、東京のサントリーホールでのモーツァルトのコンサートであった。

私はクラシック音楽には造詣がほとんどないので、あまり乗り気ではなかったのだか、会場で聞く音楽は、ほとんど聞き覚えのある楽曲であった。私はコンサートが終わってから、ひとりで音楽ショップへ行き、なんとモーツアルトのCD12枚セットとかを買ってしまった。

コンサートで聞いたモーツアルトと妙に波長が合うような気がしたのだ。彼女はピアニストであり、ベートーベンの曲が好きなのだそうだ。なるほど、ベートーベンの曲は、彼女の性格に合うのかもしれない。

西洋人の宗教心の厚さ

 その後、転職の合間の休暇にヨーロッパなどを歩き、モーツアルトやベートーベンが住んでいたアパートや墓を見て回り、すっかりコラシック音楽の虜となってしまった。

ヨーロッパ旅行については、下記の記事をご参照ください。
#26 スイス放浪記
#29 ミニ、メルセデス、そして欧州旅行
#30 氷点下のドイツ旅行
#31 ブドウ園の中のワイン居酒屋「ホイリゲ」

 バッハもモ-ツァルトも教会音楽に深く関与している。この度のヨ-ロッパの旅で、事あるごとに感じたのは教会の存在の大きさ、人々の信仰心の厚さである。

 ヨーロッパの数世紀にわたって今日にまで及んでいる有名な大きな教会は、現在ほど建築技術も発達していないのに、どのようにしてあんなバカでかい教会を建築しえたのだろうかと思えるほど、巨大で、かつ精巧である。建築資金は、やはり信者の寄付なのだろうか?

 結婚式のときだけ教会を使わせてもらうようなわれわれ民族には、思いも着かないような深い深い信仰心なくしては、あのような建築物はできないと思った。

 今回の旅では、ロマンティック街道(*)のロ-テンブルグやウィ-ンでは、ちょうどクリスマスの飾り物販売のマ-ケットが開催中であった。

 市内はもとより近郊からも買い物に来るらしく、ホット赤ワインや焼きソ-セ-ジの屋台なども出て、日本の年末の東京・アメ横のような騒ぎである。これには日本人がお座なりにクリスマスツリ-の飾りをするのとは、基本的に違う熱意というか、鈍重なひたむきさ、宗教心みたいなものを感じた。

ホットワイン(赤)

ホット赤ワインについて書く。クリスマスのころの彼の地の気温はおそらく零度前後。クリスマス飾りの買い物をする客には、何か暖かい飲み物が欲しい。それがホットワイン(赤)なのだ。普通の磁器のマグカップに、1杯いくらで移動車販売のようなことをしている。

試しに1杯買ってみた。いまは金銭単位はユーロだが、当時はドイツ・マルクだったような気がして、たしか最初の1杯は500円くらいだったと記憶している。飲み終わってカップを返すと200円くらい戻してくれる。カップが欲しければカップは返さなくてもいい。

(*) ロマンチック街道は、街道沿いに点在する中世都市(ローテンブルク、ディンケルスビュールなど)や美しい城(ノイシュヴァンシュタイン城、ハールブルク城など)、宗教建築(ヴュルツブルクの司教館やヴィースの教会など)、工芸品(クレーグリンゲンのマリア昇天の祭壇など)が点在し、フランケン・ワインやドナウ川のます料理など観光資源が豊富なルートで、(ドイツでは)最も人気の高い観光街道の一つである。(出典:Wikipedia)

 

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